一家の大黒柱が亡くなった時、真っ先に悩むことは収入です。家庭の営みを1人の稼ぎ手によって支えていた場合、残された遺族は経済面でも非常に苦労します。しかし、遺族がそのような事態に陥った時には、遺族年金と呼ばれる年金が支給されます。この遺族年金と呼ばれるものの1つとして遺族共済年金が存在します。
大黒柱のいない一家を支えてゆくための遺族共済年金とはどのようなものなのでしょうか。この記事では、遺族共済年金の定義から、受給資格、受給額まで知っておきたい情報をお伝えします。
遺族共済年金とは
一家の大黒柱が亡くなってしまうと、遺族の方は生活面でも非常に苦労します。しかし、遺族共済年金を受け取ることで、生活も随分と楽になります。残された遺族の方の生活を保障するものとして支給される遺族共済年金とは、一体どのようなものなのでしょうか。まずはその基礎についてご紹介しましょう。
遺族共済年金の定義
遺族共済年金とは「共済組合の組合員あるいは組合員であった人が亡くなった場合に、遺族の方に支給される年金」のことです。共済年金とは、国家公務員や地方公務員、私立学校職員が加入する公的年金のことです。したがって遺族共済年金の目的は、これらの公務員の方が亡くなった時に、遺族の方の生活の安定を援助することにあります。
ただ、2015年10月からは共済年金が廃止され、厚生年金に一本化されたので、現在は新しく共済年金に加入するということはありません。ただし、遺族共済年金の給付自体は今でも行なわれています。このことについては後ほど詳しくご紹介します。
遺族年金の一部に含まれていた
遺族共済年金は2015年10月以前までは「遺族年金」と呼ばれるものの一つに含まれていました。遺族年金とは「一家を支える人が死亡した時に遺族が受け取ることのできる年金」のことです。この遺族年金は「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」「遺族共済年金」の3種類でした。
これらの年金のうちどれを受け取ることができるかは、亡くなった方がどの種の年金に加入していたかによって異なっていました。
どのように異なっていたのか、確認すると次のようになります。
国民年金のみに加入していた場合
国民年金のみに加入していた場合、つまり自営業・自由業者である場合には、条件を満たしている限り「遺族基礎年金」を受け取ることが可能です。
厚生年金にも加入していた場合
死亡者が会社員であり、厚生年金にも加入していた場合には、条件を満たした上で「遺族基礎年金」に加え、「遺族厚生年金」を受け取ることが可能です。2015年10月以降は公務員もこちらの年金に加入します。
共済年金に加入していた場合
死亡者が公務員であり共済年金に加入していた場合には、条件を満たした上で、「遺族基礎年金」と「遺族共済年金」を受け取ることができました。しかし2015年の10月からは、官民の格差を無くすために共済年金は廃止され、厚生年金に一本化されるようになりました。
このことから、遺族共済年金を利用できるのは公務員の方など、共済年金に加入している方のご家族であるということが分かります。
共済年金が廃止された現在も、遺族共済年金は支払われている
以前は公的年金には「国民年金」、「厚生年金」、「国家公務員共済年金」、「地方公務員共済年金」、「私立学校職員共済年金」の5つの年金制度がありました。しかし、このように公務員の年金制度が民間の年金制度とは別のものとして扱われていたために、共済年金と厚生年金の間に制度の面で官民の格差が存在していました。
そのような格差を無くすために、2015年10月からは厚生年金に一本化されることとなり、公務員も厚生年金に加入するようになりました。したがって、現在公的年金制度が国民年金・厚生年金の2種類のみとなり、公務員向けの年金制度は廃止されました。
「国家公務員共済年金」「地方公務員共済年金」「私立学校職員共済年金」などの公務員向けの年金制度はもはや無くなってしまいましたが、共済年金の給付まで停止されたわけではありません。
実際、2015年の9月30日までに、公務員向けの共済年金に加入し亡くなった場合には、現在でも各共済組合から遺族共済年金の給付が行なわれています。つまり、2015年9月30日までの間に共済に加入していた方が亡くなっている場合には、未だ遺族共済年金が支給されているということなのです。
遺族共済年金の仕組みは
遺族共済年金の年金額は、亡くなった方が生きていれば本来受け取るはずだった共済年金の4分の3であり、妻が生きている間はずっと支払われるものです。子供が高校を卒業すると、遺族基礎年金の支給が終わります。しかし、その代わりとして、妻の老齢基礎年金が支払われるようになり64歳までは「中高齢寡婦加算」が支給される仕組みとなっています。「中高齢寡婦加算」については、後ほど<受給額は>の項目で詳しくご紹介します。
受給資格は
遺族共済年金を受給するための資格は、亡くなった方と遺族の方の両方で満たす必要があります。ここではそれぞれの条件に付いてご紹介します。
亡くなった方の条件
まずは亡くなった方の条件を確認しましょう。遺族共済年金を受け取るためには、亡くなった方が以下の4つの条件を満たしている必要があります。
- 共済年金に加入している
- 共済組合の組合員であった方で、共済年金の加入中に初診日のある傷病で、退職後、初診日から5年以内に死亡した
- 1級、2級の障害者共済年金あるいは1級から3級の受給権者である
- 退職共済年金を受給中、あるいは退職共済年金の受給資格を満たしている
②の条件が分かりにくいので、もう少し分かりやすく考えてみます。「共済組合の組合員であった方で、共済年金の加入中に初診日のある傷病で、退職後、初診日から5年以内に死亡した」とは、故人が共済組合員であった期間中に、病気であることを医師から診断され、初診から5年経って亡くなった場合(ただし、すでに退職している)ということです。
この4つのうち①~③を「短期要件」、④を「長期要件」と呼びます。
遺族共済年金で受け取ることのできる額は「短期要件」であるか「長期要件」であるかによって異なります。「短期要件」では、被保険者期間が300月未満の場合に300月として数えて計算します。一方で長期要件の場合には被保険者期間を実期間で計算します。遺族共済年金の支給額については、また後ほどご紹介しますね。
遺族の方の条件
以前、遺族共済年金は、遺族に該当する全ての方が支給を受ける権利を有していました。しかし、現在遺族共済年金を受けることができる方は、以下の条件に該当する方のみです。
- 死亡当時、亡くなった方の収入により生計を立てていた
- 死亡者の①配偶者②「子」(つまり遺族基礎年金の「子」)③父母④孫(「子」と同じ制限がある)及び祖父母の順に優先して支給される
2つ目の条件については、遺族の間に優先順位があることに注意しましょう。
また、配偶者あるいは子が受給を受け取る場合には、遺族基礎年金と遺族共済年金の両方を受け取ることができます。
ただし、子・孫で遺族共済年金を受けるためには条件が課されています。この条件は2つあります。
- 18歳の3月31日を迎えるまでの期間のみ遺族共済年金を受けることができ、なおかつ配偶者がいない場合に受け取ることができる
- 共済年金の組合員・元組合員であった方が死亡した当時以降も、継続して障害級が1級あるいは2級の障害を持っている場合に受け取ることが可能
最初の条件は、18歳になって初めて迎える3月31日に至るまでの期間を指しています。
遺族共済年金が支給され始めた当時は18歳以下であっても、18歳の年度末(3月31日)を過ぎれば支給が終わるということです。
手続きの方法は?
受給資格が複雑な遺族共済年金ですが、その手続きも難しいのか気になるところですよね。遺族共済年金の手続きは書類さえ揃えることができれば、それほど難しくはありません。ここでは、手続きの手順と必要な書類をご紹介します。まずは、手続きの手順から確認してみましょう。
手続きの手順
遺族共済年金を受け取るために、最初に行うことは、死亡した事実の届け出を完了させることです。死亡した事実の届け出は市区町村の役所や会社に提出します。届け出に必要な書類は「亡くなった方が既に年金を受給しているか、受給していないか」で異なります。
亡くなった方が年金を受給していない場合で、国民年金に加入していた場合には「国民年金被保険者死亡届」を市区町村の役所に提出します。
一方、亡くなった方が厚生年金の加入者であった場合には、会社を通して「資格喪失届」を提出します。
亡くなった方がすでに年金を受け取っていた場合には、年金証書を添付した「年金受給者死亡届」を年金事務所に提出します。死亡の届け出を行なわずに、年金を受け取っている場合、処罰が課されることがあるので、必ず死亡の事実を知らせましょう。
死亡の届け出を完了したら、共済組合あるいは年金事務所で手続きを行ないます。共済組合あるいは年金事務所で手続きを行う際には、提出書類を用意して提出すれば手続きを行うことが可能です。
書類の提出先は、遺族共済年金のみ請求する場合には、故人が加入していた共済組合に、それ以外の場合には年金事務所あるいは年金相談センターとなります。
遺族共済年金の提出書類
遺族共済年金の手続きを行う際には、非常に多くの書類の提出が求められます。必要書類は、遺族年金の種類や加入年数により異なる場合もあるため、提出先にあらかじめ問い合わせましょう。提出書類を挙げてみると以下のようになります。
- 遺族共済年金決定請求書
この書類は共済組合の本部または共済組合の支部から取り寄せます。
- 亡くなった方の共済組合の年金証書の原本
こちらは年金受給者の方が亡くなった場合に提出します。
- 亡くなった方の戸籍謄本(原本)
- 亡くなられた方の住民票除票(原本)
- 死亡届に付いている死亡診断書(死体検案書)の記載事項証明書(原本)
- 請求する遺族の世帯全員の住民票(原本)
- 請求する遺族の所得証明書あるいは非課税証明書(原本)
- 亡くなった方の共済年金以外の公的年金制度に加入していたことがある場合、年金加入期間の確認証明書(原本)
※公的年金制度とは、厚生年金保険、国民年金などを指します。
- 亡くなった方、あるいは遺族共済年金を請求する遺族が国民年金。厚生年金保険、共済年金の受給権を持っている場合には、年金証書の写し
- 請求する遺族の年金手帳あるいは基礎年金番号通知書などの写し
受給額は
遺族共済年金の受給額は、「長期要件」と「短期要件」に分けられています。
「長期要件」、「短期要件」については<受給資格は>の項目をご参照ください。短期要件とされるのは「共済年金の加入期間が短い時」であり、長期要件として受給額が計算される時は「共済年金へ加入していた期間が長く、受給資格期間を満たしている時」です。また、短期要件の計算方法について、加入期間が300カ月未満である場合には300カ月として計算されることになっています。長期要件の場合には、組合員期間は実期間で計算します。
計算の仕方
遺族共済年金の計算方法はどのように計算すれば良いのでしょうか。計算式は次の通りです。
「厚生年金相当部分」+「職域年金相当部分」+(「中高齢寡婦加算」)
このような計算式から遺族共済年金の支給額が算出されます。
「職域年金相当部分」という箇所は、共済年独自の上乗せ年金であり、2015年10月以前には公務員の方のみを対象として計算されていたものです。つまり公務員の遺族の方が得しているということであり、この部分が官民の格差と言われて問題視されていました。
2015年10月以降は共済年金が廃止され、公務員も会社員と同じ厚生年金に加入することとなったため、「地域年金相当部分」の計算は省かれています。しかし、2015年10月までに共済年金加入者が亡くなった場合は、従来の通り「地域年金相当部分」も計算に含まれます。
それでは「厚生年金相当部分」、「職域年金相当部分」そして「中高齢寡婦加算」それぞれの計算を詳しく確認しましょう。
厚生年金相当部分の計算方法
厚生年金相当部分は、制度改正の影響により2015年3月31日以前と2015年4月1日以降で計算が異なります。それぞれの計算式は以下のようになります。
→2003年3月31日まで
平均給料月額×7.125/1,000×組合期間の月数×3/4
→2003年4月1日から
平均給与月額×5.481/1,000×組合期間の月数×3/4
「平均給与月額×7.125/1,000×組合機関の月数」と「平均給与月額×5.481/1,000×組合期間の月数」は老齢厚生年金の計算式を表しています。したがって、厚生年金相当部分では老齢年金の額の4分の3を受給することができるということになります。
また、上記の計算で注意したいことは「平均給料月額」と「平均給与月額」と呼び方が異なっている点です。「給料」というのは諸手当や賞与を含めないものを指し、「給与」とは給料に加えて諸手当や賞与を含めたものを指します。2003年までは、諸手当や賞与が年金の計算から省かれていたため、3月31日以前と4月1日以降で計算式が異なるのです。
職域年金相当部分の計算方法
次に職域年金相当部分の計算を確認して行きましょう。職域年金相当部分は公務員独自の給付です。計算式は次のようになります。
→2003年3月31日まで
平均給料月額×1.425/1,000×組合期間の月数×3/4
→2003年4月1日から
平均給与月額×1.096/1,000×組合期間の月数×3/4
職域年金相当部分は、2015年10月以前に共済加入者が無くなった場合のみ計算に含まれます。2015年10月以降に亡くなった場合には、職域年金相当部分を計算せずに受給額を算出します。職域年金相当部分は官民の差として疑問視されていた部分なのですね。
中高齢寡婦加算とは
中高齢寡婦加算では一年で584,500円(2017年現在)が支払われます。中高齢寡婦加算とは、組合期間が20年以上であった配偶者が死亡した時に、残された妻が40歳以上である場合、65歳に至るまでの間に支給されるものです。つまり、本人の老齢基礎年金が受給できるようになるまでは、遺族共済年金に加えて中高齢寡婦加算が支給されるということです。
なぜ、中高齢寡婦加算が必要であるのかというと、遺族共済年金のみでは十分でないということ、そして中高齢の年代は十分な収入で生活を賄う機会も制限されてしまうことが懸念されるためです。
ただ、遺族共済年金を受け取る妻が40歳以上60歳未満であっても、子供がおり、18歳未満である場合には遺族基礎年金を受け取ることができるので、中高齢寡婦加算は支給されません。子供が18歳の年度末(3月31日)を過ぎると、遺族基礎年金が支給されなくなるので、その代わりとして、中高齢寡婦加算が加算されるようになります。
ここで遺族基礎年金という言葉が出てきたので、一旦その言葉について確認しましょう。遺族基礎年金は、どのような場合に支給されるかというと、「遺族が18歳未満の子供を持つ配偶者である場合」と「遺族が子供のみである場合」です。したがって、家庭に18歳未満の子供がいる場合には、遺族基礎年金を受け取ることとなるのです。
もちろん、子供のいない方で40歳以上60未満である場合には、40歳に達した時点から中高齢寡婦加算が支給されます。
分かりやすくまとめると以下の図のようになります。
引用:地方職員共済組合
また、65歳以降も「経過的中高齢寡婦加算」が支給される場合があります。「経過的中高齢寡婦加算」の支給対象は昭和31年4月1日以前に生まれた方です。ただ、「経過的注高位寡婦加算」は65歳に至るまで支給されていた「中高齢寡婦加算」の金額よりも、支給される額が減ります。
注意点など
遺族共済年金は細かい決まり事が非常に多いので、一気に説明されると混乱してしまいますよね。理解の混乱を防ぐためにも、最後にまとめて注意点を確認していきましょう。
遺族共済年金は非課税
遺族共済年金は全額非課税であり、所得税・住民税の課税対象となりません。
年金額が130万円以上である場合、健康保険の扶養に入れない
「60歳未満で遺族年金を含めて年収が130万」を超える場合、あるいは「60歳以上で年収が180万」を超える場合、家族が加入している健康保険の扶養に入ることはできません。
遺族厚生年金と遺族共済年金の両方の受給権を持つ場合
亡くなった方が、公務員を務めていた時期も、会社員を務めていた時期もある場合、遺族は遺族共済年金と遺族厚生年金の両方を受け取る権利を持つ可能性があります。両方を受け取る場合とはどのような場合なのでしょうか。
両方を受け取ることが可能かどうかは、「短期要件」と「長期要件」のどちらに該当するかにより異なります。
遺族共済年金と遺族厚生年金の両方を受ける場合とは「長期要件」の遺族厚生年金、「長期要件」の遺族共済年金に該当する時です。
また、どちらか一方を自由に選択できる場合や、どちらかを指定される場合もあります。
「長期要件」の遺族厚生年金と「短期要件」の遺族共済年金に当てはまる時には遺族共済年金を受けることになります。
そして、「短期要件」の遺族厚生年金、「短期要件」の遺族共済年金に該当する場合、あるいは「短期要件」の遺族厚生年金、「長期要件」の遺族共済年金に当てはまる場合にはどちらか一方を選択します。
遺族共済年金の受給権を失う場合とは
遺族共済年金はいつまで受け取ることができるのでしょうか。それは遺族共済年金に支給を受けている方が、亡くなった方とどのような関係であったかによって異なります。
亡くなった方の子や孫が支給を受けているのであれば、「18歳に達してから最初に迎える3月31日に至った時」から支給を受け取ることができなくなります。ただし、障害等級が1級、2級である場合には継続して受け取ることができます。18歳の年度末を過ぎ、障害の事情がなくなった時には、支給が停止します。
また、遺族共済年金を受けている遺族が、死亡・結婚・再婚あるいは直系血族か直系姻族以外の養子になった時には、受給することができなくなります。
そして、遺族共済年金を受けている遺族が自分の老齢年金を受け取ることのできる年齢に達した時には、老齢年金あるいは遺族厚生年金のどちらか一方しか受けることはできません。原則としては、受け取ることのできる年金額の多い方を選びます。
相続放棄していても受給できる
遺族共済年金は相続ではありません。したがって、相続放棄を行なっている場合でも、受け取ることができます。また、相続税もかかりません。遺族共済年金は支給を受けることのできる遺族が自分の名前で受け取ることのできる年金なのです。
最後に
一家の稼ぎ手が亡くなった時に支給される遺族共済年金は、非常に複雑で分かりにくい仕組みです。特に、亡くなった方が会社員も公務員も両方務めていた場合には、遺族厚生年金と遺族共済年金の両方を受けるケースと、どちらか一方を受けるケースに分かれているので注意が必要です。どの遺族年金を受け取るか、いくらの支給額を受け取るかは「短期要件」なのか「長期要件」なのかで変わります。何に該当するのか1つずつ確認して手続きを行ないましょう。