相続放棄の基礎知識や手続き方法を必要書類を見ながら解説

ある日突然「あなたに遺産が相続されます」という連絡が来たら、ほとんどの方が宝くじでも当たったような「嬉しい」という思いを抱くのではないでしょうか。

予期していなかった遺産が舞い込むとなれば嬉しい気持ちは分かりますが、相続というのは単にお金が入ってくるというわけではなく、注意しなければならないこと(確認すべきこと)もあるのです。

今回は相続放棄をテーマにお話ししようと思います。文字を見て「何故せっかくの遺産を放棄するの?」と疑問を持つ方も少なくないと思います。この記事を最後までお読み頂ければそんな疑問も解決しますし、いざという時に知識があれば揉め事やトラブルに巻き込まれなくて済みます。

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はじめに

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相続放棄のお話しをする前に、まず遺産相続について少し触れておきたいと思います。「遺産相続ぐらい知ってるよ」と思う方も、その後の本題「相続放棄」に繋がりますので是非ご覧ください。

故人の資産を受け継ぐ

遺産相続というのは、亡くなった方が持っていた土地・建物などの不動産をはじめ、預貯金や現金ももちろん様々な資産(財産)を受け継ぐことですね。ここまでは誰もが知っていることだと思いますが、財産というのはプラスのものだけではありません。

例えばローンや借金も財産なのです。という事は、遺産を相続するというのは故人が残した預貯金や不動産だけでなく、借金などの負債まで一緒に受け継ぐという事なのです。

もしも、財産は全て貴方へ譲り渡すという内容の遺言書が見つかったとしても、ここで喜ぶのはまだ早いです。どのような財産がどれだけあるのか?負債はないか?などを事細かく確認してから相続しないと、とんでもない事になる可能性があるのです。

相続放棄とは?

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ここからいよいよ本題です。上記のように何もせずにただ相続してしまうと、遺産が舞い込むと思って喜んだのもつかの間、場合によっては自分が残りの借金を返済しなくてはならない可能性だってあります。そうならないための手段として「相続放棄」のことを知っておかなければならないのです。

相続するか否かの判断

故人が亡くなる前に遺言書をきちんと作成していたと仮定します。そして、遺言書だけでなく財産のことを事細かく記入した財産目録というものまで作成していた場合、どこにどんなプラス財産があるのか、誰にいくら借金があるのかなどマイナス分も把握できます。

簡単に言ってしまうと、相続して全てを受け継いでも問題がないのか、受け継ぐとマイナスになってしまうのかで相続するのか放棄するのかを選択できるという事になります。

3つの相続方法

単に相続といっても3パターンあって、「①単純承認」、「②限定承認」、そして「③相続放棄」です。今回のテーマは③の相続放棄ですが、違いを知って頂くために①.②についてそれぞれ簡単にお話ししておきたいと思います。

【①単純承認】預貯金も不動産もそして借金も、とにかく全ての財産を相続することです。プラスだけでなくマイナス分も全てです。相続にかぎらず、何をするにも何かといろいろな手続きが必要となるものですが、この単純承認は手続き不要です。

全てを受け継ぐ意思が固まっているのであれば、相続を知った日から3ヶ月間何もせずに(限定承認や相続放棄の手続きをせずに)放っておいても単純承認したとみなされるのです。

【②限定承認】故人が遺言書や財産目録なども作成していなかったためにプラスになる財産もマイナスになる借金も全く分からないといった場合に選択できるものです。

例えば、プラスの財産が1000万円、マイナス財産が1800万円だったとします。よく確認もせずにこのまま単純承認をしてしまうと自分には何の関係もない800万円の借金が出来てしまうことになります。

このような状況の時は限定承認を選択すれば、800万円の借金を背負う必要はなくなります。ただし、借金などのマイナス分をチャラにして1000万円が貰えるという事ではありません。

マイナスの財産がある場合はプラスの財産で返済するというだけで、もしも、上記のようにプラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合は、差額の800万円を返済する義務はないというものです。という事は±0で結局のところ自分には1円も入らないという事ですね。

相続放棄だとどうなるのか

では財産を放棄するとどうなるのでしょうか。「放棄」ですから、プラスの財産もマイナスの財産も全てひっくるめて「要りません」という意思表明です。どんなに莫大な財産であろうと、多額の借金があろうと、一切受け継ぐことはできません。

これに関しては、財産目録などがあって明らかにマイナスの財産が多いと分かっていれば迷うことなく選択できますが、もしも何も分からないのに最初から財産放棄をしてしまうと大損する可能性もありますので、慎重な判断をしなくてはなりません。

相続放棄の手続き方法

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単純承認や限定承認のことについても詳しくお話ししたいところですが、今回は相続放棄にスポットを当てていますので、ここからは相続放棄について詳しく見ていきたいと思います。

手続きに必要なもの

  • 相続放棄の申述書
  • 申立添付書類
  • 被相続人の住民票除票又は戸籍謄本
  • 申述人(放棄する方)の戸籍謄本

などとなっていますが、申述する人によって他にも必要となる場合がありますので、下記サイトでご確認ください。また、申述人が20歳未満の場合と20歳以上の場合では申述書そのものが異なりますので、同様に下記サイトでご覧ください。申述書のダウンロードもここから可能です。

参考サイト:裁判所ホームページ 相続放棄の申述

実際の申述書をダウンロードして記入必須の箇所に記入してみましたが、箇所は思ったよりも簡単で手間ひまがかかるようなものではないという印象を受けました。

こちらは2枚目の「申述の趣旨」という内容のものですが、亡くなった方の財産を詳しく記入する必要があります。もちろん、マイナスの財産(負債)も全て記入します。

また、必要書類を提出するのはもちろん裁判所となりますが、裁判所なら全国どこでもいいというわけではありません。亡くなった方の住所が最後に登録されていた地域(管轄)の裁判所に限られています。提出する裁判所へ直接持参してもいいのですが、実は郵送でも対応してくれます。

手続きの期限

相続放棄をするためには期限内に届け出る必要があります。その期限は相続を知った日から3ヶ月以内です。相続を知った日からと言われてもアバウトすぎてピンと来ませんね。

では亡くなった事を知った日という事でしょうか。1月1日に亡くなったとして、何らかの事情で4月に亡くなった事実を知ったら相続放棄はできないのでしょうか。

また、相続放棄という法律そのものを知らなかった場合はどうなるのでしょうか。知っていれば期限内に手続きできますが、知らなかったのだから仕方ないという事で、相続放棄という法律を知った日から3ヶ月以内であれば大丈夫と思いがちですが答えはNOです。

どんな理由(事情)があろうと、この法律を知りませんでしたというのは通用しません。また、法律は知っていたけど自分が相続人だということを知らなかった場合も同じです。法律上は「知りませんでした」は認められない事になっているのです。

日本語の言い回しや、その人の捉え方で異なった解釈をしている方が大勢いらっしゃるのですが、亡くなった日ではなく亡くなった事実を知った日から3ヶ月以内という考え方でいいのです。

※相続には順位があります。もともと相続人だった誰かが相続放棄したために、そもそも相続人ではなかった人が繰り上がって相続人になることもあるのですが、この場合は特例として相続人になった事実を知った日から3ヶ月以内であれば良いという事になっています。

期限が切れてしまったら

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亡くなった事も、自分が相続人であることも知っていたけれど、忙しさにかまけて期限である3ヶ月を過ぎてしまったら相続放棄はできなくなって、プラスとマイナスどちらの財産も有無を言わさず受け継がなければいけなくなるのでしょうか。

特例もある

法律上、期限内に手続きできなかった場合は全ての財産を相続しなくてはならないとされています。ただし、誰が考えても仕方ないと思えるような理由がある場合に限って、特例のような形で期限を新たに設定してもらう事ができます。

例えば、長年離れて暮らしていた相続人が父親の死を知ったけれど、兄が家を継ぐことになっていた事もあり父の財産や負債がどれだけあるのかを全く知らなかったとします。承認すべきか放棄すべきか判断に困ったので調査を始めたのですが、期限内に判明しませんでした。

このような場合は家庭裁判所に申立てをすることで期限の延長ができるのです。裁判所のホームページには、以下のような記載があります。

相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に,単純承認,限定承認又は相続放棄をしなければなりません。もっとも,この熟慮期間内に相続人が相続財産の状況を調査しても,なお,単純承認,限定承認又は相続放棄のいずれをするかを決定できない場合には,家庭裁判所は,申立てにより,この3か月の熟慮期間を伸長することができます。

引用:相続の承認又は放棄の期間の伸長

手続きにかかる費用

まず必要になるのは800円分の収入印紙です。これは相続放棄をする人数1人につきの金額ですので、もしも5人いれば4,000円の収入印紙が必要という事になります。そして連絡用として郵便切手が必要となるのですが、金額は裁判所によって異なります。

必ずかかる費用としては以上なのですが、相続人同士で揉めていたりするとなかなかスムーズに事が運ばない事もあります。そんな場合は弁護士さんなどに依頼するようになると思います。その相場を見ておきましょう。

【M弁護士事務所の場合】※相続放棄する人は1人とした場合の費用です。

  • 相談料…無料
  • 相続放棄申述書作成…30,000円
  • 戸籍収集…1件1,000円

【I弁護士事務所の場合】※条件は上記と同じとします。

  • 相談料…無料
  • 相続放棄申述書作成…35,000円
  • 戸籍などの収集…1件1,000円

他にもいくつか見てみたのですが、費用に関してはどこも大差はありませんでした。ただし、この料金はあくまでも正当な期限内に手続きができる場合のものです。

もしも期限内に手続きできなかった場合で、負債があまりにも大きかったなどの理由でどうしても放棄したいとなれば自力ではどうにもなりませんので、プロに依頼するしかありません。その場合は当然ですが上記の料金よりも高くなりますし、絶対に100%申請が通るわけではありません。

相続放棄の手続きから決定まで

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実際に自分が相続人であることを知って、相続放棄をするという選択をしてから、相続放棄が決定するまでどれくらいかかるのでしょうか。また、どのような流れで手続きが進んでいくのかを見てみましょう。

分かりやすいように、被相続人が亡くなったのが1月1日で、特別な事情などはなく一般的な流れで進めるものとしてお話しします。また、親族などからの連絡によって自分が相続人であることを知ったその日からすべきことも合わせて見ていきたいと思います。

【1.相続の事実を知る】※1月1日(亡くなった当日)に知ったと仮定します。

亡くなった方の死亡届の提出、葬儀の手配、親戚縁者などへの連絡など、するべきことがとても多いので、まずはお通夜やお葬式を滞りなく終わらせることが先決です。

火葬場が混み合っていたりなどの特別なことがない限り、通常は一週間ほどで落ち着くはずですし、亡くなった方をお送りするための各種の手続き期限もほとんど一週間以内となっていますので、1月7日までには全ての手続きが終わっていなければなりません。

【2.遺産の確認】※2月20日に遺言書が見つかったとします。

故人に遺産がある事を知らなかった場合、住居として住んでいた家と土地について話し合いが始まるのが一般的です。子供たちは遠方にすんでいてその家に移り住む者が居ないとなれば、単純に家と土地を売却して全員で均等に分けるようになると思います。

しかし、故人が遺言書の他に財産目録をきちんと事細かに作成した場合はどうでしょうか。遺言書によって全ての財産を受け継がせたい旨を明確に表明していても、財産目録によると負債の事実もあるというような場合にはそのまま単純承認というわけにはいかないですね。

全ての財産を確認した結果、プラスの財産が1000万円、マイナスの財産が1500万円だったとします。そこで子供たちは全員で相続放棄の選択をします。まだ亡くなった事を知った日から3ヶ月以内ですので、この時から手続きを開始しても十分間に合います。

【3.相続放棄の手続き準備】※2月30日

前述の必要書類を準備しますが、被相続人と相続人の関係によって下記の書類も必要となります。

  • 相続人が配偶者や子供の場合…被相続人の死亡記載のある戸籍(除籍)謄本
  • 相続人が孫になる場合…被相続人の死亡記載のある戸籍(除籍)謄本と被代襲者(本来の相続人である孫の親)の死亡記載のある戸籍謄本
  • 相続人が親や祖父母の場合…被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)謄本、被相続人に子供(孫)がいたけれど被相続人より先に死亡していた場合は子供(孫)の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍)謄本
  • 相続人が兄弟や姉妹の場合…被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)謄本、被相続人の直系尊属の死亡記載のある戸籍(除籍)謄本

などとなりますが、相続人によって必要な書類は他にもあります。

【4.申立て】※3月10日

全ての書類が揃って申述書も記入できたらいよいよ申立てです。管轄の裁判所(家庭裁判所)へ全てを持参するか郵送しますが、この一式が裁判所に提出された日(到着した日)が3ヶ月以内です。この場合は、1月1日に亡くなったので期限内に提出できたことになりますね。

【5.裁判所からの通知】※3月20日

4.の申立てをしてから早ければ数日、遅くても2週間前後で「相続放棄に関する照会書」が届きます。これが届いたら内容を確認して、記入する項目はもれなく記入して返送しなければなりません。

ただし、場合によっては照会書が届くのではなく「審問手続き」になることがあるのですが、この場合は指定された日時に家庭裁判所へ出頭して、質問のやり取りを直接することになります。

相続放棄に関する照会書の内容は、記入日や住所・氏名などの基本的な情報に加えて、「あなたの名前で相続放棄の申述行われていることを知っているか」、「被相続人の死亡を知った日はいつか」、「相続放棄の申述はあなたの真意によるものなのか」などといった質問形式です。

適当に回答せず、ありのままを正直に正確に記入しなければなりません。相続放棄をする理由も聞かれますが、選択式になっていますので該当するものを選択します。どれも該当しない場合は「その他」を選択して手書きで回答を記入します。

【6.審理と決定】

裁判所から届いた相続放棄に関する照会書に対する回答を返送すると、提出している書類や回答書などをもとに審理が行われます。

その結果、何も問題がないと判断されれば「相続放棄申述受理通知書」というものが送られてきます。この通知が届いたら相続放棄が決定したという事になりますが、連絡用に預けていた切手が使われずに残っていた場合はこの時一緒に返されます。

通常は回答を送ってから約一週間前後で届くようですので、3月20日に届いた回答を翌日(21日)に郵送したとすると、どこから送ってどこへ届くのかにもよりますが、翌日か翌々日に届くとしてそれから一週間前後ですので、3月29日~30日ぐらいには通知が届くと思われます。

ということは、1月1日に亡くなった方の遺産を相続放棄すると、すべてが終わるまで約3ヶ月ほどかかるということになりますね。しかし、これはあくまでもスムーズに進んだ場合です。

相続放棄のメリットとデメリット

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物事にはメリットとデメリットがありますが、相続放棄をするメリット・デメリットはどういったものがあるのでしょうか。故人が遺言書などを一切残していないという場合は特にいろいろと面倒な事もあります。

メリット

ここまで見て来てお分かりだと思いますが、相続放棄をする一番のメリットは借金を背負わなくて済むという事ではないでしょうか。亡くなって初めて借金の存在を知れば愕然としますが、相続放棄をしてしまえば一切その借金と関わらなくて良いのですから大きなメリットといえますね。

さらに、遺産分割協議という面倒なことに関わらなくて良くなるのもメリットの1つです。遺産分割協議というのは、亡くなった方の意思が全く分からない、つまり遺言書などが作成されていなかった場合に行われるものです。

こういった場合、相続人がたくさんいるならその全員が共同で相続することになりますね。家や土地、山林、車、預貯金などがたくさんあると、「亡くなるまでの間ずっと介護してきたから自分が多めに欲しい」とか、「自分だけ大学に行かせて貰えなかったから預貯金をその分多く欲しい」とか言い出す人もいます。

このような事で揉め事になったりする事もあるので、出来れば関わりたくないという人が多くいらっしゃいます。遺産分割協議は、相続人が全員で話し合いをして遺産の分割方法を決めなければなりません。

相続放棄をしてしまえば、最初から相続人ではなくなりますので、そのようなゴタゴタに関わらなくて済みます。また、後から借金が発覚したとしても相続すべてを放棄しているので肩代わりの必要もなくなりますし、故人にお金を貸していたという人が現れても返済する義務はありませんので拒否できます。

デメリット

借金の肩代わりをしなくて済むというメリットがある一方で、プラスの財産も一切もらえなくなるというのが一番大きなデメリットと言えます。つまり、一番のメリットであると同時に一番のデメリットでもあるのです。

きちんとした遺言書や財産目録があったとしても、亡くなった本人も忘れていた莫大な金額の預貯金などが発覚したとします。その時に「その事実は知らなかったのだから自分にも分けて欲しい」と言ったところで通用しません。極端な例ではありますが、そういった事が皆無とは言えないので限定承認というものがあるのです。

注意すること

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最後になりますが、相続放棄をする上で注意しなければならない事をお話ししておきたいと思います。ただ、単に後々の借金などがイヤというだけで相続放棄を選択するのではなく、状況などを見極めて慎重に判断するようにしましょう。

相続放棄の前にしてはいけない事

例えば、個人が亡くなる前に借金やローンなどの負債がある事実を知っていたとします。そして、自分が相続人であることももちろん知っていましたので、亡くなった後は相続放棄をすると決めていました。

実際その被相続人が亡くなったあと、形見分けと称して時計や美術品などを譲り受けてから相続放棄の手続きを開始したとします。このような場合は相続放棄が認められませんので要注意です。

たとえ高額の物でなくても、相続放棄の手続きをする以前に個人の物をもらったり売ったりすれば、その時点で相続したとみなされるのです。

まとめ

いかがだったでしょうか。自分には関係ないと思っている方でも、相続放棄について知っていて損はありません。もしかしたら自分の知らない相続すべき財産があるかもしれないのです。その事実を知って単純承認をしてしまう前に、ぜひ今回お話ししたテーマ「相続放棄」を思い出してください。