イギリスがEU離脱(ブレグジット)した理由は?日本への影響は?日経株価はなぜ暴落した?

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マナ
こんにちは、fincle専属ライターのマナです!

今までは仮想通貨に関する記事を書いていましたが、今回はイギリスのEU離脱についてわかりやすくまとめてみました。

イギリスのEU離脱という民意が示された国民投票の結果は、日本にも大きな影響を及ぼしました。東証の日経平均株価は1200円以上下落し、円相場は一時1ドル=100円を超える円高になりました。

今回はイギリスのEU離脱の概要やが世界・日本経済に与えた影響/今後与えうる影響について詳しく解説します。

イギリスのEU離脱(ブレグジット)の概要

まずはイギリスのEU離脱の概要について確認していきましょう。

国民投票の争点

EU離脱をかけた国民投票では、「移民」、「経済」、「安全保障・外交」の3つの分野が大きな争点となりました。

移民

中東での戦況が悪化するにつれ、中東諸国と陸続きであるヨーロッパには移民が多く流入しました。ヨーロッパの中でもとりわけ社会保障が手厚いといわれているイギリスを目指す移民が多くいました。

しかしながら移民が来ることで職が無くなったり、税金が余分にかかるなど、イギリス人の間では不満が相次いでいました。そのため、国民投票では「移民」が重要な争点となりました。

残留派
イギリス政府は今年の2月、EU域内からの移民労働者に対し、社会保障費の給付を最初の4年間は制限できることでEUと合意しました。

つまり社会保障費を給付しないとなると、移民に対してイギリス国民の税金を使わなくても済みますもんね!

そうなんです。残留派は、この合意を実行すれば、移民の抑制は可能だとしていました。

離脱派
一方で離脱派はこの合意では不十分で、EUにイギリスが加盟したままである場合、今後も移民は増え続けると批判していました。

経済

残留派

残留派は、イギリスの輸出のおよそ半分がEU向けたものであり、離脱するということは関税のかからない「単一市場」へのアクセスを失い、新たに関税を課せられる可能性があると指摘していました。

またEUから離脱すれば、EUが自由貿易協定を結ぶ50を超える国との貿易で恩恵を受けることが難しくなるとも言われていて、輸出産業は打撃を受けることになると主張されていました。

離脱派
離脱派は、イギリスが単独で中国やインドなどと自由貿易交渉を進めたほうが他のEU加盟国の承認を得ずとも協定を結べることから、貿易においてメリットがると言っていました。

また、EUが設ける金融規制が国際的な金融センター「シティー」の競争力を奪っているとして、離脱して規制が緩和されればビジネスの柔軟性が高まり、金融センターの競争力は逆に向上するのではないかとも言われていました。

安全保障・外交

残留派

残留派は、EUから離脱すれば、テロ対策に必要な犯罪歴や国境審査の記録を始めとした情報を加盟国と簡単に共有できなくなると主張して今した。
外交交渉においては、イギリス単独よりEUの一員として交渉に当たったほうがより大きな影響力を与えることが出来るのではないかと言っていました。

離脱派

離脱派は、情報面での協力はEUと行うよりアメリカやカナダなど英語圏の国々と行うほうが有益だと主張しています。

マナ
EUの国々には移民がたくさんいるので、英語圏との情報交換の方が大切とは一概に言えないですよね…

仮にEUから離脱したとしても、国連安保理の常任理事国やNATO=北大西洋条約機構の主要メンバーであるため、国際的に影響力を保ち、行使することが可能であると訴えていました。

離脱するメリット・デメリットはそれぞれありますが、経済や安全保障面を考えると、残留の方がやや安全策といえそうですよね。

なぜイギリスはEUを離脱してしまったのか?

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かなりの接戦ではありましたが、経済的なメリットから残留派が有利であると多くの人が述べていました。それなのになぜイギリスはEUを離脱してしまったのでしょうか?

生活水準への不満とエリートへの反発

生活水準へのエリート層に対する反発が離脱を引き起こしたといわれています。

マナ
エリート層に対する反発とは?

日本人にとっては少し理解するのが難しいですよね。日本は中流階級が多いといわれており、「あの人は上流階級だ」「あの人は下層階級だ」なんて言いませんよね。しかしながら、イギリスでは未だこれらの階級制度は暗黙の了解として存在しているのです。

「欧州統合はエリート層が引っ張り、大衆層が足を引っ張る(危機感をあおる)」とよく言われており、エリート層による統合であると言われることがあります。

経済情勢が厳しかった1980年代以降、エリート層が「域内市場統合によって市場が活性化される」「域内市場統合はやらねばならない」と言ってきたのが実情です。

残留派の代表格であるキャメロン首相も屈指のエリートです。生活水準への不満を抱く人々は、「キャメロン首相は移民を抑制すると言っておきながら、ちっとも抑えないじゃないか。結局エリート達は今の現状に満足し、税金を無駄に使っているだけじゃないか。」という反発が起こってしましました。

投票する人は、今の生活に変化を求めたのです。

今回、残留の大きなデメリットとして「変化」を打ち出すことができない点が変化を求めた人々にとって魅力的に映らなかったのでしょう。逆に離脱派に対しては、EUを離脱してもいいことはないと分かっていながら、少なくとも変化は起きるという期待感をもって投票したのかもしれません。

離脱による日本への影響

EU諸国との交渉結果にもよりますが。EUを離脱してしまうと、日本の企業や金融機関にも今後さまざまな影響が出ると指摘されています。

日本にとって第4位の投資先

英語圏であり法人市民税率も比較的低く、EUで事業を進める拠点にもなっているイギリスは、日本にとって「アメリカ」、「中国」、「オランダ」に次ぐ第4位の投資先になっていました。

財務省と日銀によると、2015年末時点の日本からイギリスへの直接投資の残高は10兆4053億円に上りました。

マナ
直接投資の残高についてわかりやすく説明してもらえますか?

もちろんです。(対外ここではイギリス)直接投資とは、外国への投資のうち、子会社を作ったり、現地の企業を買収したりして、直接経営権をとるような投資のことを指します。 対外直接投資残高は、今までにどれだけ対外直接投資がされてきたかです。 前者は直接投資が行われる過程の概念で、後者はストックの概念です。

この直接投資残高を業種別にみますと、

1位:世界的な金融センター、シティーを抱える金融・保険業の投資が32%

2位:北海油田の原油や天然ガスの開発などの関連で、鉱業が14%

最近では、大手電機メーカーの日立製作所が高速鉄道を受注したことや、東芝などが原子力発電の建設を計画している発電会社を買収するなど、インフラ関連の投資も増えています

また、多くの企業が現地に拠点を設けています。外務省がまとめている海外在留邦人数調査統計によりますと、2015年10月の時点で1021社の日系企業がイギリスに拠点を置いています。

国別で見ると12番目、ヨーロッパではドイツに次いで2番目に多くなっています。

マナ
当時の日本経済にとってイギリスがどれほど重要な地位を占めているかが分かりますね。

他にもビジネスなどで長期滞在や永住している日本人も、およそ6万7900人と、アメリカ、中国、オーストラリアに次いで4番目に多いそうですよ。

離脱による貿易への影響

EU域内の貿易は現在、関税がかかっていません。しかしながら当然のことですが、イギリスが離脱した場合、域内の国に輸出する際に関税がかかる可能性があります。

今までであれば、関税のかからないイギリスで製品を生産するほうがよかったため、日本からイギリスを経由してEU各国に輸出している企業が多く存在しています。今後はこれらの企業の販売への影響が懸念されます。

日本経済のかなめである「日産自動車」、「トヨタ自動車」、「ホンダ」の3社は、去年1年間にイギリス国内で合わせて78万台余りの自動車を生産しました。

そのうちの多くがEU各国に輸出されています。自動車は額が額ですので、自動車産業には大きな影響が出ると指摘されていました。さらに、イギリスとEU各国の間でものを輸送する際に、今は行っていない通関手続きまで必要になってしまうために、時間と手間がかかるのです。

ビジネス環境の変化

EUにはいくつかのの共通のルールが存在しており、イギリスも今までそのルールに基づいてビジネスを行っていました。しかしながら、離脱が決まるとその制度や規制が変わる可能性があります。

例えば、個人情報の保護について、イギリスとほかの国とで異なる規制が設けられることなどで、企業にとって負担が増えます。

他にも、現在はEU域内ではビザを取得しなくても行き来ができますが、離脱した場合には手続きが増える可能性があります。

マナ
ビジネスの世界は一分一秒も無駄にできないのに、手間が増えるとなると負担が…

その通りです。ヨーロッパ全体のビジネスを統括する部署をイギリスに置いている多くの日本企業にとって、ビジネスの利便性や従業員の雇用にも影響が出ると指摘されていました。

(参照:http://www3.nhk.or.jp/news/special/brexit/article12.html

イギリスがEU離脱をすることで日本の企業に大きな影響が出ることが分かりました。しかしながらこれらは2019年3月までに新たな協定や条約、ルールなどが設けられなかった場合に起こりうる問題です。

現時点でさほど株価や日本円、企業への影響は出ていませんが、EUとイギリスの交渉次第では大きな影響を与える可能性があります。

日系平均株価への影響

実際に離脱が決まった時、日本の株価や円はどのように推移していったのでしょうか。

円高と株安

日本経済新聞によると、2016年6月23日の英国の国民投票で「EU離脱」が選択されたことが明らかになると、24日の東京市場では急激な円高と株安が進行しました。

24日の東京株式市場で日経平均株価は前日比1286円33銭(7.92%)安の1万4952円02銭で取引を終えました。

2016年初来安値を更新し、2014年10月21日以来およそ1年8カ月ぶりの安値を付けた。なんとその下げ幅は2000年4月17日以来、約16年2カ月ぶりの大きさでした。

マナ
どれだけ離脱が株価に影響を与えたのかがわかりますね。

世論調査では「EU離脱」と「EU残留」が拮抗していたものの、イギリスのEU離脱は英国に大きな経済的打撃を及ぼすと考えられるため、投資家の多くは残留を予想していました。

しかしながら、この予想が外れたことでポンドが急落し、代わって円、ドル、スイスフランなどが大幅上昇しました。

また、輸出大国である日本は、円安であると株価が比較的に上がりやすいため、株価は大幅に下落しました。

(参照:https://www.nikkei.com/article/DGXLAS3LTSEC1_U6A620C1000000/)

どうして円高は起こったの?

野村証券シニアアナリストの岸田英樹さんによると日本は世界でも「実質金利」が高いとみられているので、円高になりやすいという背景があるそうです。

マナ
でも確か、マイナス金利とかじゃなかったでしたっけ?

それもそうなんですが、ヨーロッパもマイナス金利ですよ。しかしここには日本との違いが存在しています。

というのもヨーロッパにおいていくらマイナス金利と言っても、そこにはインフレになるという期待がまだ残っています。

だから人々が銀行に預金をすると、将来の物の値段が上がるので、損してしまうという心理がはたらくのです。

一方、日本の場合は、今後それほど物価が上がるという期待がされていない。だから銀行預金しても、それほど損をしないと思われています。それが「実質金利の高さ」です。

マナ
確かに…私はよく海外旅行に行きますが、賃金の割には日本の物価は安かったです。また、物価の変動もさほど大きくはないですよね。

通常、世界経済がうまくいっている間は、余った資金を海外で運用していきます。ただ危機になると、こうした「実質金利が高い」と見なされている国に、資金が引き揚げられてしまいます。

マナ
いつの間にか、前まで買えていたものが同じ値段で買えなくなったりすると怖いですもんね。

そうですよね。この有力な引き揚げ先としてスイスフランがありましたが、2015年夏から対ドルで上昇していませんでした。引き揚げ先(ここではポンドをはじめとした通貨に代わる新たな投資先)として魅力的でないと見なされ、多くの投資家が日本を引き揚げ先として選択したのです。

(参照:https://www.huffingtonpost.jp/2016/06/24/brexit-economist_n_10654608.html)

EU離脱後の経済

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イギリスとEU各国との交渉

2017年12月にイギリスとEUは離脱条件で基本合意をしました。

これから本格的に交渉に入っていくのですが、アイルランドと北アイルランドの間の国境、イギリスとEU間の移民や関税をどうするかなど、難しい問題が山積みとなっています。

イギリスはEU離脱後も、EU市場へのアクセスが容易である、単一市場を維持したいと願っています。またEUからイギリスへの移民は制限したいけれども、EU加盟国であるアイルランドと北アイルラドの国境間では自由に人の移動ができるようにしたいと述べています。

しかしながらそんな虫のいい話はないでしょう。

現に2018年9月20に行われた欧州連合(EU)の英国を除く27加盟国は、英国が離脱後の通商関係として提案する「モノの自由貿易圏」構想は「機能しない」とし、各首脳が受け入れられないとしています。

日本への影響

2018年2月8日、メイ首相はイギリスに進出している日本企業の代表と鶴岡大使をロンドン首相官邸に招待し、EU離脱後の日英間の今後の通商関係について話会いました。

日本企業側からは日本を代表する企業である、日産自動車、トヨタ、三菱商事、ソフトバンク、日立製作所、三井住友銀行など18社の幹部が参加しました。

この会議では主に、イギリスのEU離脱後も企業がスムーズに事業を継続できるような体制について話し合われました。

また、2019年3月にEUを離脱した後、企業が通商に関する新たなルールに適応するために準備が必要であることから、2年間の移行期間を設けてほしいと日本側は交渉したといわれています。

これに対し、メイ首相はEU側とできる限り速やかに合意に至りたいと述べ、EU離脱後も日本企業に投資継続を要請しました。

日EU経済連携協定(EPA)を基本とした、日本との新たな自由貿易協定(FTA)を結ぶなどとして、対応していく狙いです。

おわりに

一見関係なさそうな他国の国民投票の結果が、世界及び日本経済に大きな影響を及ぼしていることが分かりました。

株などを始める際には、こういった日常のニュースをこまめに確認する必要がありそうですね。

イギリスは3月29日をもって離脱することが決まっています。果たして今後の経済にどのような影響を与えるのでしょうか。EUの動きや日本企業への経済的な措置などに随時チェックしておきましょう♪

マナ
以上、マナがお伝えしました。