ベーシックインカムは18世紀末に社会思想家・トマスペインにより提唱されましたが、現在ヨーロッパを中心とした多くの国々において試験的な試みが成されています。国家レベルでの実施には至らずとも、本格的にベーシックインカムが導入されている地域も存在し、世界の注目を集める話題となっています。
全国民の最低限の生活を現金支給により守ることで、一体どのようなメリット・デメリットが生じるのでしょうか。そして、世界各国・日本での実現可能性はあるのでしょうか。今回は、様々な観点や導入国の事例からベーシックインカムについて探ります。
引用:PAKUTASO
目次
ベーシックインカムとは
ニュースや新聞を見ているとベーシックインカムという話題が飛び込みます。ベーシックインカムは国民の最低限の生活を守るために国家が支給するものですが、ある程度の条件は存在するのか、そしてベーシックインカムが導入されると現存する社会保障はどのように扱われるのかといった疑問を持ちますよね。
そこで、ますはベーシックインカムの基本についてご紹介します。
ベーシックインカム
ベーシックインカムとは、「年齢や性別を問わず全ての国民に、無条件で、ある一定の現金を一律(同じ金額)で定期的に付与する仕組み」です。「基本所得保障」「最低限所得保障」「国民配当」とも呼ばれることもあります。″無条件で″とは、個人の職業や、収入、失業中であるか、在職しているかといったことは関係ないということを意味しています。
またこの制度においては、「すべての国民が衣食住において最低限の生活を営むことを保障すること」が目的とされています。ただ、生存権を保障する制度としては、すでに失業保険・子育て支援・生活保護など数多くの制度が存在しますよね。そのため、ベーシックインカムを導入するのであれば、コストを削減するためにも、これらの保証は廃止されることになります。国民の生活の保障はベーシックインカムに一本化されるのです。
社会主義とどう違うの?
全ての国民に無償で一律の現金を保障するベーシックインカムですが、社会主義とはどう異なるのでしょう。ベーシックインカムと社会主義では、何が違うかというと、「働いた分が自分のお金になるか否か」という点です。
社会主義体制のもとでは、他の人より多く働いてもその分は自分に返ってきません。「皆平等」でなければならないので、収入に差が生じることは認められていないのです。
一方で、ベーシックインカムの場合は、衣食住に必要な最低限の収入に限っては皆平等でありながらも、自分の仕事によって得た収入は自分のものとなります。つまり、「ベーシックインカムは皆平等だけれども、自分で稼いだお金は自分のものになる」のです。この点が、ベーシックインカムと社会主義の違いとなります。
なぜ欧州で注目を集めているのか
ベーシックインカムの試験的な導入はヨーロッパにおいて積極的に行われています。なぜ、世界の中でも特に欧州でベーシックインカムが注目されているのでしょうか。
その最大の理由は、欧州諸国の社会保障の制度が複雑であること、多層的であることにあります。欧州においては、社会保障を受けている失業者は、低収入の仕事を得ると、失業中に受けていた社会保障の恩恵を受けることができなくなり、気軽に仕事に就くことができない状態に陥ってしまいます。
このように欧州諸国は、失業者が再就職を躊躇せざるを得ない状況下に置かれているため、失業率がなかなか低減しないという問題が存在します。このような問題を解決する有力な手段として、ベーシックインカムの導入が議論されるようになったのです。細かな社会保障を撤廃して、一定の金額を支給することで、たとえ低収入の仕事であっても失業者は職を得ようと考えます。そのため、失業率の低下が期待できるのです。
このような理由から欧州各国でベーシックインカムの導入が真剣に検討されています。
ベーシックインカム導入国はあるの?
ベーシックインカムついては、国によって導入の段階が異なります。つまり、実験的にベーシックインカムを導入している国もあれば、本格的にベーシックインカムを導入している地域も存在しています。
現時点においては、「国家レベルで本格的に」ベーシックインカムを導入している国は存在しません。しかし、地域レベルで本格的に導入している地域は存在します。アメリカのアラスカ州です。アラスカの事例については、詳しく後述しますが、この地域でベーシックインカムの導入が実現できた理由としては、石油産業が活発であり、そこから得られる利益が豊富なために、財源確保が比較的行いやすかったということが挙げられます。
一方、試験的な導入ではありますが、フィンランドにおいては、2017年から国家レベルでの導入が行なわれています。ベーシックインカムの試験的導入は、地域で行われることが多く、国家全体で実施されることはありませんでした。したがって、フィンランドが世界初、国家レベルでの試験的導入を開始したことは大きな注目を集めています。
また、地域レベルでのベーシックインカムの導入を行なっている地域としてはオランダのユトレヒト、カリフォルニアのオークランドが挙げられます。これに加え、2017年の4月24日には、カナダのオンタリオ州で貧困層4000人に限って3年間ベーシックインカム制度を試験的に導入することが発表されました。その他、スコットランドのグラスゴーではベーシックインカムの導入が議論されています。
このように、国家レベルにおいて本格的にベーシックインカムを導入している国はありませんが、多くの国や地域が少しずつベーシックインカムを導入する準備を進めています。各国ごとの詳しい情報については、後ほど<各国の事例>の項目でご紹介します。
参考元:Newsweek Japan(2017年 著者調べ)
日本は今後どうなる可能性がある?
世界各国がベーシックインカムについて積極的に検討している中、日本にはどのような可能性があるのでしょうか。
日本がベーシックインカムを導入する際に、最も問題となるのは「財源確保」です。
財源の面からはかなり厳しいと言わざるをえません。例えば、年金生活世帯(夫婦2人)の平均消費支出は約24万円/月なので、毎月12万円を全国民にベーシックインカムとして支給すると仮定したら、なんと年間で173兆円の財源が必要となります。社会保障給付費(年金、医療、介護・福祉などの合計)が117兆円であることを考えると、とても賄えません。
ベーシックインカムを導入する場合、数々の社会保障が廃止され、それらにかかっていた費用はベーシックインカムに回されます。しかし、上の記事を読む限り、既存の社会保障にかけていたコストのみでは到底賄いきれないということになります。したがって、財政面を考えると実現しにくい制度であると考えられるでしょう。
とはいえ、ベーシックインカムを導入することで、行政改革の点で大きな恩恵がもたらされます。欧州諸国のみならず、現在の日本の社会保障制度も、複雑多岐にわたっているからです。
日本では年金や生活保護、介護、保育などの社会保障制度があり、それぞれの部門に非常に多くの職員が配置されています。そのため、現在の日本の社会保障制度には莫大なコストがかけられていると言っても過言ではありません。これらの社会保障制度を廃止し、ベーシックインカムに費用を回した方がコストを有効に活用できるという考え方もあるのです。
しかしそれと同時に、ベーシックインカムの導入は、現存の社会保障制度に携わっている職員が職を失うことを意味します。そのため、これらの職員からは大きな反発の動きが高まることが予測されます。
また、ベーシックインカムが日本でうまく機能するには労働市場を改革する必要があります。
日本の労働市場は非常に硬直的です。未だに大企業は新卒一括採用、終身雇用に拘り、正規雇用と非正規雇用では給与水準も福利厚生も大きく異なり、また人生のステージに応じて正規と非正規を行ったり来たりすることも困難です。更に言えば、職業訓練の機会も、企業が主に正規雇用に提供するOJTか、ハローワークなどの公的機関が提供するベーシックな内容のものくらいしかなく、スキルアップを通じた転職が難しい国と言わざるを得ません。
このように硬直的な労働市場では、多少頑張っても低賃金の状況から脱することはなかなか難しいと多くの人が思ってしまっているので、そこでベーシックインカムを導入したら、低賃金の人ほど働くインセンティブを失うことになりかねないのではないでしょうか。
確かに、日本では未だに柔軟性のある労働市場が整えられていません。そのような状況の中でベーシックインカムの制度が導入されても、仕事のスキルアップは望めないままで、労働意欲の低下を招いてしまう恐れがあります。
そのため、労働市場に柔軟性が無いと、ベーシックインカムを導入しても、十分なメリットをもたらすことができないばかりか、かえって導入するデメリットが大きくなってしまうのです。
さらに、ベーシックインカムが導入されることによって、収入が減ってしまう、既得権益者の反対も受けるでしょう。例として年金受給者の場合を考えてみます。厚生年金の平均支給額はおよそ14万円です。しかし、仮に月10万円のベーシックインカムが導入されるとすると、毎月約4万も収入が減ってしまうこととなります。これほどに収入が減ってしまえば、ベーシックインカムの導入に否定的にならざるを得ません。したがって、ベーシックインカムを導入するためには、既得権益者に対する対応も検討しておく必要があるのです。
以上から、日本でベーシックインカムが導入するには、それ以前に財政の改革・労働市場の改革、既得権益者への対応について考える必要があります。日本において、現時点で即座にベーシックインカムを導入することは考えにくいものですが、導入に向けて周辺の制度を改革して行けば、ベーシックインカムを導入することができるでしょう。何年もかかる作業かもしれませんが、日本においてもベーシックインカムが導入される可能性は十分にあり得るのです。
ベーシックインカムを導入するメリット
ベーシックインカムが導入されることで、もたらされるメリットは多く挙げられます。具体的なメリットは以下の通りです。1つずつ確認して行きましょう。
貧困層の減少
生活してゆくのに最低限の収入があれば、母子家庭の方や賃金が少ない方、病気や年齢で働くことが困難な方がそれほど苦しまずに生活できる環境を作り出せます。
労働意欲の向上
労働意欲に関してベーシックインカムがもたらす影響は、一概に良い・悪いで判断できません。最低限の収入が支給されるために、働く必要性を感じなくなるケースが増加するのではないかとの懸念もあります。
しかし、生活に必要なお金が保障されれば、「生活のために働く」という考え方自体が払拭されます。仕事が「食べるためのもの」ではなくなり、「生活を豊かにし人生を豊かにするためのものだ」と考えられるように変化してゆくでしょう。
このように、人々の仕事観そのものが変われば、仕事への意識や姿勢が変わり、生産性も上がることが期待されているのです。
ブラック企業が無くなる
ブラック企業が存在し続けるのも、やはり生活に必要なお金を少しでも稼ぐ必要に迫られる人が存在するためです。苦しい状況の中で、搾取され続けているにも関わらず、劣悪な労働環境の中で働き続けなければなりません。
しかし、ベーシックインカムによって生活して行くためのお金の調達が保障されれば、ブラック企業に勤めてまで働く必要性が無くなります。
少子化対策
子供の生活費だけでも負担となるにもかかわらず、大学まで教育を受けさせるには多額の金額が必要です。
子供1人だけ育てるにしても多くの金額が必要となるのに、それ以上の人数の子供を持つことは経済的に困難です。ベーシックインカムで7万円が支給されたとすれば、両親と子供2人で28万円となります。この支給額に仕事の収入を足せば、子供が多いほど生活が安定する可能性も考えられるのです。
給与問題、残業問題が無くなる
生活のためには、残業の多い会社や待遇の悪い職場で、否が応でも働き続けなければなりません。しかし、ベーシックインカムが導入されることで生活のために働かなくても済むようになり、無理な労働から解放されるようになります。このように、最低限度の収入が保証されることで、残業・給与についての問題が解決されるのです。
貧困から起る犯罪の防止
日本においては、海外ほど貧困から起る犯罪は少ないものです。しかし、多くの国において貧困は犯罪を引き起こす根源となっています。生活に最低限必要な収入を受けることで、生活面のみならず、精神面における安定ももたらされ、結果的に犯罪の減少につながることが期待されています。
起業の促進
起業には、多くのリスクが伴います。莫大な資金を集めて事業を起こしたにもかかわらず、失敗に終わった場合に受ける損害は大きなものです。特に、日本においてはこのようなリスクが原因となっているため、起業に対する見方もそれほど好ましくありません。しかし、仮に失敗したとしても生活して行けるだけの収入が約束されていれば、起業に踏み切れるケースも増加することが予想されます。
社会保障制度に関するコスト削減
ベーシックインカムが保障されることで、複雑で細々とした無数の社会保障制度がベーシックインカム一本に統合され、行政コストの削減を狙うことができます。
ただし、既存の社会保障制度が簡略化され、行政コストが削減されるということは、今まで社会保障制度の実施に携わっていた人のポストを無くすことを意味します。人員削減の問題に直結することとなるため、そう容易にベーシックインカムを実現させるわけには行かないのです。
ベーシックインカムを導入するデメリット
単純に考えると、国から生活に必要な最低限の現金が支給されるのは夢のようなことです。しかし、一旦慎重に検討すると多くの問題を含んでいることが分かります。ここでは、良いことばかりに思えるベーシックインカムのデメリットについて確認してみます。
労働意欲の低下と格差の広がり
メリットで少し触れたように、ベーシックインカムが導入されることで働かなくなる人が増えることが懸念されています。最低限の生活が保障されれば、仕事をしなくても済むと考える人が増えると、生産性にも支障が出ます。ベーシックインカムを導入した国の経済競争力自体が低下する恐れも否めません。
その一方で、労働意欲の高まるケースも予想されるため、働かない人とより一層仕事に力を入れる人の間で、意識・収入の格差が広がってしまう恐れがあるのです。このような二極化をどのようにして防ぐかという問題が残されているのです。
ただ、今のところ各国が行なったベーシックインカムの導入実験の結果を見てみると、仕事を辞めた人は少ないことが分かります。そのため、一概に労働意欲が低下するとはいえないのです。
損をすることもある
ベーシックインカムが導入されることで、収入が減り損をする場合もあります。年金受給者や生活保護受給者などの既得権益保持者は、自分の受けている社会保障が撤廃され、ベーシックインカムに一本化されることで、いままでの需給額よりも数万円下回る額の現金を受け取ることとなります。
年金は現在平均14万円支給されていますが、ベーシックインカムで10万円支給されることになると4万円も収入が減ってしまうこととなるのです。
このように、全ての国民にメリットがあるというわけではなく、ベーシックインカムによって損する国民も存在するのです。
富裕層の海外流出
ベーシックインカムを実現するには豊かな財源が必要です。税を負担することで、これらの財源を提供する義務のある富裕層は、その多額の負担に不満を感じ、国内から出て行ってしまう可能性が考えられます。
福祉水準の低下
ベーシックインカムを導入するということは、全ての社会保障を一本化するということです。したがって、個人の状況に応じた、きめ細やかな保障が無くなるため、健康状態に合わせた扶助を加えることが不可能となります。したがって、福祉の水準が低下してしまうという懸念も存在します。
他国の事例
ヨーロッパをはじめとして世界各国で活発な議論を巻き起こしているベーシックインカムですが、この問題に関する各国の現状はどのようなっているのでしょうか。
フィンランド
2017年1月1日からは、ヨーロッパ地域において初めて国家レベルでベーシックインカムが導入されることとなりました。経済の低迷と高まる失業率に歯止めをかけるためにも、ベーシックインカムと言う打開策が必要とされたのです。ただ、この実験はあくまでも試験的なものであり、2017年1月1日から2018年12月までの2年間に限られたものでもあります。
また、国家レベルとはいえ、そもそも今回の試験的導入の目的は「ベーシックインカムが失業率の低下にどのような影響をもたらすのか調査すること」にあるので、全国民に対して現金が付与されるわけではありません。支給対象は、無作為に選出された2000人の失業者に限られています。現在、支給は月ごとに行なわれ、月に560€、つまり日本円でおよそ6万8000円が支給されています。
オランダ
オランダでは2016年1月から、国内第4の都市であるユトレヒトにおいてベーシックインカムが試験的に導入されました。オランダにおける受給対象者は社会保障給付の受給者300人ほどであり、900€から1300€の金額が支給されています。
2017年からは実験対象が拡大され、最大25の自治体に住む約21,843人の福祉仕立人が実験対象となっています。
カナダ
カナダにおいては、1974年から1979年の間にベーシックインカムの実験が実施されました。この実験は「Mincome」と呼ばれた実験で、毎月あらゆる金額の給付金を支給し、国民の最低限度の生活を保障することを目的としていました。しかし、「Mincome」の場合は正式に導入される前に政権交代が行なわれたため、計画倒れとなりました。
このように実現には至らなかったものの、5年間の間に行なわれた「Mincome」は着実に効果をもたらしていたことが研究により明らかにされています。この研究は2011年にマニトバ大学の経済学者であるエヴェリン・フォゲット氏により発表されたものです。
研究では、5年間に実施された「Mincome」によって、長時間労働を強いられても貧困を逃れることのできないワーキングプア層の生活が安定したという結果が報告されています。
また、ベーシックインカムが導入されても、働く時間に大きな変化があったというわけでないことも証明されています。したがって、ベーシックインカム導入に関する懸念の一つである労働意欲の低下はそれほど大きな問題には至らない可能性があることが判明しました。
スイス
スイスにおいては2016年6月にベーシックインカムを国家レベルで導入するかどうか、世界で初めて国民投票を実施しましたが否決されました。財源確保に対する疑問や労働意欲低下の恐れなどが懸念されたためです。
スイスでは「貧困撲滅」を掲げて成人に2500フラン(約27万円)、未成年に625フラン(6万8000円)支給される仕組みが提案されていました。しかし、スイスのベーシックインカムには、支給の条件が定められていました。その条件とは、収入の月額が2500スイスフランに満たない場合において、不足している分をベーシックインカムとして補い、全国民が2500スイスフランの収入を確保できるようにする、という条件でした。
無収入の人にとっては、収入を得ることのできる良い制度ではありますが、月収2500フランを超えて働く人はベーシックインカムを受け取れず、また収入はあっても2500スイスフランに満たない人にとっては、大した収入にならないため労働意欲も向上しない、といった問題が存在しました。
今回の投票の結果は、財源確保だけでなく、ベーシックインカムの仕組み自体に国民が疑問を持っていたことの表れだといえるでしょう。
アラスカ
アラスカ州ではすでにベーシックインカムが導入されています。州税が課されず、その上、州からベーシックインカムの収入をえることができる、つまり住むだけで収入を得ることが可能な夢のような制度が実施されています。
アラスカ州ではベーシックインカムとして1年につき1000~2000ドルを支給しています。この地域において、ベーシックインカムの導入を行うことが可能な理由として、石油産業が鍵を握っています。アラスカでは州営の石油パイプラインが運営されており、Alaska Permanent Fundという公益ファンドを通して州の住民にベーシックインカムが分配されています。
ブラジル
ブラジルにおいては既にベーシックインカムのような制度が、国家レベルで導入されています。あまり話題にされませんが、世界で唯一ベーシックインカムを法制化している国なのです。
しかし、ベーシックインカムの導入と言っても、衣食住全ての面で行われているわけではありません。現段階においては「ボウサ・ファミリア」という、所得制限付の児童手当がベーシックインカムの最初の段階として導入されているだけです。ブラジルが全面的な導入を行うには財政問題の解決が必要とされているのです。
ただし、現在行われている児童手当のおかげで、適当な教育を受ける機会が多くの子供たちに与えられ、自分の夢を実現する意欲を持った子供も増えてきていることが分かっています。
カタール
ベーシックインカムと呼ばれる制度は実施されていませんが、この仕組みに近い枠組みを適用している国が存在します。中東諸国の1つであるカタールです。カタールは、消費税・所得税を国民に課さず、病院の診察、大学までの教育費、電気・水道・光熱費が無料であることが特徴的です。
なぜこのような手厚い制度が整っているのか。その理由はオイルマネーにあります。世界でも高い原油生産量を誇るカタールは、原油の輸出の恩恵により国が豊かであるため、このような政策の実行が可能となるのです。
ベーシックインカムのように、国が国民に現金を支給しているわけではありませんが、豊かな財源を持つカタールは、生活を営む上でかかるお金を可能な限り国民に負担させないような仕組みを整えることができたのです。
最後に
ベーシックインカムの実現について検討する際、多くの国が共通して抱える課題はやはり財源の問題です。すでにベーシックインカムを導入しているアラスカ州や、ベーシックインカムと類似した制度を設けているカタールの場合は、資源が豊富なため、財源調達に関する問題は無く、ベーシックインカムの仕組みを導入しやすい環境が整っていました。
日本においては、財源確保の問題や労働市場の問題など、周辺の制度が整えられてから、ベーシックインカムの導入が可能となるでしょう。導入までには時間がかかることが予想されます。しかし、各国が導入の検討を進める中、日本でもより一層議論の対象となることは間違いないでしょう。