100年に一度の経済危機と言われ、世界経済に大きな打撃を与えたリーマンショックが起こって10年の月日が流れました。
当時は大口の投資家や会社が破産、あるいは大損失を被り、個人投資家さえも一瞬のうちのお金を失ってしましました。そのため21世紀に起こった世界最大の金融危機と言われています。
実はリーマンショックは突然起きたわけでないのです。リーマン・ブラザーズが破綻するよりも前から、金融危機が起きるのではないか?という兆候は表れていました。
この記事では、アメリカ経済のみならず日本及び世界経済まで大きな影響を及ぼした、リーマンショックの原因を深堀した後、リーマンショックが日本経済に与えた影響についても詳しく見ていきたいと思います。
目次
リーマンショックとは?
まずはリーマンショックの概要について確認しておきましょう!
リーマンショックとは2008年9月、大手投資会社リーマン・ブラザーズが経営破たんしたことで起きた、世界的な経済危機のことです。アメリカ市場のみならず世界の市場が混乱状態に陥り、株価が急落しました。
ちなみにリーマン・ショックは和製英語です。英語ではthe financial crisis of 2007–2008(2007年から2008年の金融恐慌), the Global Financial Crisis(国際金融危機), the 2008 financial crisis(2008年金融危機) などと呼ぶのが一般的です。
リーマンショックの兆候
上述したようにリーマンショックは突然起こったわけではありません。リーマン・ブラザーズ破綻前にはいくつかの兆候が見られていて、これらが積み重なり、結果として金融危機を引き起こしてしまいます。
当時どのような兆候がみられたのでしょうか。詳しく見ていきたいと思います。
ニューセンチュリー・ファイナンシャルの破綻
経済危機の兆候が表れたのは、リーマン・ブラザーズの破たんから1年も前のことでした。
2007年4月、サブプライムローンを提供する、アメリカでトップクラスの大手銀行ニューセンチュリー・ファイナンシャルが破綻してしまいました。
サブプライムローンはもともと低所得者、つまり返済能力が低い人が利用していたため、ローンで貸付したお金が回収できず資金繰りが悪化していました。
パリバショック
2007年8月、BNPバリパというフランスに本拠のある金融グループがサブプライム問題を深刻に受け止め、パリバ傘下のミューチュアル・ファンドが投資家からの解約凍結を発表したことで、引き起こした混乱のことをパリバショックと呼びます。
かねてから懸念材料のあったサブプライム関連商品が含まれた投資信託を、解約したくても解約できない事態に陥ったのです。
2007年8月9日に解約の凍結が発表されたことで為替相場は急変、欧米株は急落、14日の日経平均は一時、600円安と深刻な事態に陥りました。
ショック後の市場では、サブプライムローン関連の買い手がつきませんでした。そのため解約に対応するための資金調達が困難になり、それまで積極的に購入していた欧米の投資家が大きく動揺し、信用不安が増大してしましました。
パリバショックの時点では、金融当局や市場関係者、金融機関などもサブプライム問題の深刻性をまだ十分に認識していなかったといわれています。
そのため一度は鎮静化の兆しが見られましたが、2008年3月の米大手証券のベアー・スターンズの経営危機を機に再燃しました。
(参照: https://www.ifinance.ne.jp/glossary/world/wor035.html)
ベアー・スターンズの破綻
2008年3月、米大手証券のベアー・スターンズは経営危機に直面してしまいました。
ベアースターンズは、危機に瀕する直前まで黒字見通しを発表していたにもかかわらず、わずか数日で資金繰りが悪化したといわれています。
170億円あったはずの資金はあっという間に底をつき、破綻が目の前に迫ってきました。
原因は徐々に表面化してきたサブプライム損失を危うく思った顧客や貸し手がベアー・スターンズから資金を撤収し、さらに金融機関が一斉に返済を迫る「取り付け騒ぎ」が起きたためです。
しかしベアー・スターンズは危機に瀕した直後、アメリカの銀行最大手、JPモルガン・チェースにタダ同然の破格値で買収され、なんとか一命をとりとめました。
(参照:米金融破綻、まずベアー・スターンズ https://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080319/150585/)
ベアー・スターンズという名前を聞いたことがない方もいるかもしれませんが、アメリカのニューヨークに本社を置いていた、大手投資銀行です。
ベアー・スターンズは、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズに次ぐ、アメリカ第5位の投資銀行大手の1つであり、アメリカ5大証券の一角を担っていました。日本で言うと、三井住友、三菱UFJ銀行などと同等の規模かと思います。
それほど大きな会社が破綻に迫られたこともあって、サブプライムローンへの不信感が投資家たちの間で徐々に募っていくことになります。
リーマン・ブラザーズはなぜ破綻した?
さてここからは、リーマン・ブラザーズが破綻してしまった要因について詳しく見ていきたいと思います。
サブプライムローンのおいしい罠
なんといってもサブプライムローンを商品として積極的に売り出したこと原因でしょう。
当時のサブプライムローンの内容について見ていただけると、きっと買いたいと思うはずです。
➀返済能力が低い人でも借りられる。
②家を手放せばローンの返済義務がなくなる。
⓷ローンを組んでから一定期間が過ぎると金利が高くなる。
返済能力の低い人は、メキシコやその他国からやってきた移民が多いです。そう、彼らはアメリカンドリームをもとめてアメリカ本国に渡ってきたわけです。そのアメリカンドリームの代名詞と言っても過言ではないものが家です。
基本的に返済能力のない人がローンを借りることは難しいです。しかしながら、サブプライムローンでは借りることが出来ました。そのため、多くの人が利用するに至ったと考えられます。
また、家を手放せばローンの返済義務がなくなるということも、当時の人々の背中を後押ししたのでしょう。
金利についてですが、当時、アメリカの地価や住宅価格がどんどん上昇していました。そのためローンの金利が高くなっても、最終的に利用者が損をすることはないだろうと楽観的に考えられていたのです。
デリバティブの横行とローン会社の怠慢
まずはデリバティブについて簡単に説明しておきます。
金融商品には株式、債券、預貯金・ローン、外国為替などがあります。これら金融商品を組み合わせることでリスクを低下させたり、或いはリスクを覚悟して高い収益性がでそうな商品を組み合わせて売り出す手法として考案されたのがデリバティブです。
当時、ローン会社は債券を銀行に売り、銀行は債券を証券化して投資家が買えるようにしました。この金融商品はMBS(モーゲージ債)と呼ばれました。
さらにMBSやほかのローン商品とを組み合わせたCDO(債務担保証券)という怪しげな金融商品も発売され、リスクが低くリターンの高いデリバティブ(金融派生商品)として大人気になりました。
ローンを転売するだけで、巨額のお金を手に入れることに成功したのです。
基本的にローン会社は貸し付けたお金が戻ってこなかった場合は、ビジネスに支障をきたしてしまいます。そのため、ローンを組み際には慎重に審査します。
しかしながらリーマンショックが起こった当時、ローン会社は結局債券自体を銀行などに売っていたため、ローンを組む人がどんな支払い能力が低くても気にしませんでした。
ローン会社にとって最も重要であるお金を回収できるかどうかということは蔑ろにされ、契約=審査クリアという杜撰な仕組みになっていました。
格付け会社がAAA評価
アメリカでは債券の発行元を分析し、信用度の格付けを行う格付け会社があります。
当時ムーディーズやスタンダード・アンド&プアーズ、フィッチなどの格付け会社は、サブプライムローンの中身が空っぽだったにもかかわらず、この債券に「AAA」という最高ランクを付けていました。
当然サブプライムローン債権を保有する多くの投資家や銀行はリーマンショックで大きな損失を出しました。
背景には「売れればどんな手を使ってもいい」といういい加減な考えがありました。本当かどうかはわかりませんが、アメリカ屈指の有力企業の利害関係があったといわれています。
大手銀行のゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズ、メリル・リンチ、ベアー・スターンズというサブプライム・ローンの立役者と、JPモルガンなどの金融複合企業、さらにムーディーズなどの格付け会社はサブプライム関連商品を売って大儲けするため、水面下で結託していたようです。
そのためムーディーズのような格付け会社が、サブプライム関連の商品に「AAA」という最高評価を付けていたのです。
この評価を信用した多くの人々がなんの疑問も持たずサブプライム・ローンを組み、多くの投資家がデリバティブの購入に至ったといわれています。
そしてリーマンショックへのカウントダウンが始まるのです。
2017年には、当時不当な格付けを行ったムーディーズには990億円の賠償金の請求が決まっています。
(参照:ムーディーズ、990億円支払いで和解-サブプライム証券格付けめぐり https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-01-14/OJR0I06TTDS501)
住宅バブルが崩壊
ローン利用者はもともと返済能力の低い人だったのですから、返済が滞るのは目に見えていました。
住宅供給もすでに飽和状態になっていて、買い手がつかない家が次々と出ました。また地価額や不動産価格も暴落してしまいました。
ローンが返済不可能になると債券は不良債権となってしまい、各地でサブプライム問題が一気に表面化していきました。
先ほど説明したベアー・スターンズの破綻や、パリバショックが起きたのはこのころです。
投資家が自分の持っている証券にサブプライム関連債券が混じっていることを知り、損失を恐れ慌てて売りに転じたことで市場は大混乱しました。
ローン引き受けの第一人者であったリーマン・ブラザーズは、多大な影響を被りました。
当時リーマン・ブラザーズはアメリカで第4位の大手証券会社でしたが、負債総額は6130億ドル(日本円にして約60兆円)という巨額なものとなってしまいました。
大手金融機関が買収を断念
当時、リーマン・ブラザーズもベアー・スターンズのときと同じようにアメリカの代表的な銀行や証券会社に買収され、危機を乗り切るのではないかと考えられていました。しかし結局のところ、買収はされませんでした。
アメリカ政府が「公的資金を投入するなどの救済策を講じない」と発表した影響も大きいのですが、何よりリーマン・ブラザーズの抱え込んだ負債が途方もない額だったことが大きな理由でしょう。
そのため結果として、破綻で幕をとじてしまったのです。
まとめ:リーマン・ブラザーズの破綻要因
もう一度要因について簡単にまとめておきます。
・おいしい話に惑わされる人が多かった
・サブプライムローンがさまざまな金融商品に姿を変えて世界中で売られた
→多くの人が購入に至ったことで価格が急上昇した
・サブプライムローン債券の格付けを格付け会社が誤った
・アメリカ政府がリーマンブラザーズを救済を見送った
リーマンが日本経済に与えた影響
実際のところ、サブプライムローンにはあまり関係していなかった日本は影響が少ないといわれていました。
しかしながら、影響が少ないどころか、リーマンショック後3年半近く、日経平均株価は低迷していました。
株価が低迷してしまった理由について詳しく見ていきましょう。
円高と日経平均株価の低迷
リーマンブラザーズはアメリカの大企業です。そのため、不安視された米ドルを売って円を買う投資家が増えました。当時の日本財政は安定していて、信用もあることから、円が選ばれたと考えられています。
その通りです。TOYOTAやNISSAN、SONYなど日本を代表する企業の多くが、輸出によって大きな利益を生み出しています。円安になると日本製品を安く売れる、一方で円高になると、日本製品は実質的に以前よりも高値で取引されます。
日本経済をけん引する企業が輸出産業で儲けているので、これらの企業の業績が円高によって落ちてしまうと、日経平均株価も引きずられるように株価を下げてしまうんです。
また、各国が経済不況に陥ったことで、皆がお金を使わなくなった、あるいは使うお金がなかったということも、株価を下げた一つの要因かもしれません。
日本経済の回復
日本経済はなかなか回復することがありませんでした。リーマンショックから2年後の2011年には東日本大震災が起きたことから更に悪化していきます。ようやく不況から回復したのは、2013年日銀の金融緩和政策によって、円安がもたらされたことがきっかけです。
当時日銀の総裁であった黒田氏は“毎年国債を50兆円ずつ買い上げ、ETF(上場投資信託)を1兆円、リート(不動産投信)を300億円ずつ買い集める”量的緩和政策が行いました。
(参照:日銀、緩和策を総動員 黒田総裁「異次元の政策」 https://www.nikkei.com/article/DGXDASFS0401T_U3A400C1MM8000/)
株価は回復していますが、未だ物価は上昇せず、デフレのままです。私たちの生活水準が回復したとはまだまだ言えない状態にあります。
おわりに
今回はリーマンショックについて、そしてリーマンショックが日本経済に与えた影響について見ていきました。
リーマンショックは、大手の金融機関が扱う金融商品であっても、きちんと自分で内容を確かめ判断し買うことの大切さを教えてくれる出来事でした。
また、リーマンショックがアメリカで起こった出来事であるにも関わらず、その後の日本経済において、大きな影響を与えたこともわかりました。他国で起こった出来事や事件も考慮したうえで、株への投資を行わなくてはいけないということも暗に示しているかと思います。
株などを始める際には、ニュースをこまめに確認する必要がありそうですね。