誰にでも必ず訪れる老後。定年までバリバリ働いて定年を迎えたあとは悠々自適?それなりの貯蓄があれば何の心配もないのですが、老後の生活のことを考えていろいろな貯蓄商品に加入したりする方が沢山いらっしゃいます。
そこで、今回は年金のお話しをしようと思うのですが、意外と知らない方も多いようなので「確定拠出年金」というものに的を絞ってみようと思います。
引用:photo-AC
目次
公的年金と私的年金
引用:photo-AC
確定拠出年金を知る前に、まずは「年金」のことを詳しく知る必要があります。「老後の生活費=年金」というアバウトな感覚でしか年金を知らない方って意外と多いようで、私もよく色々と質問されます。
一般的に年金と言われているものは、自営業の人でも会社勤めの方でもある年齢に達した時から受け取れるもので国から支給される年金が「公的年金」、それ以外の(国以外の)組織などが運営している年金が「私的年金」となります。
公的年金
公的年金は「国民年金」と「厚生年金」の2つです。平成27年10月以前はもう一つ、公務員などが加入する「共済年金」というものがありましたが、平成29年4月現在「共済年金」は廃止されています。
戸建ての家をイメージして頂ければ分かりやすいのですが、1階部分が年金の基礎とも言える国民年金です。自営業の方や会社勤めをしたことのない専業主婦でも、日本国内在住の方(条件を満たせば外国人も対象)が受け取れます。
対して、厚生年金は会社勤めの方とその配偶者などが受け取れる年金で、2階部分になります。国民年金は国内在住の方が受け取れるので、会社勤めのであれば1階部分と2階部分どちらも受け取れることになります。更に詳しくは下記サイトをご覧ください。
参考サイト:日本年金機構の公式ホームページ
私的年金
国民年金は20歳から60歳までの方全てに加入する義務があります。しかし、私的年金の場合は任意加入となっています。公的年金だけでは十分でないと考えて任意で準備するもので、公的年金の1階と2階よりさらに上の3階部分がこれにあたります。
この私的年金の中の1つが今回お話しする「確定拠出年金」なのです。公的年金だけでは不安だと考える方は沢山いらっしゃって、個人的に貯蓄や保険商品など様々な方法で準備している方も多いのですが、今回は確定拠出年金についての詳細をお話します。
確定拠出年金とは
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ここからいよいよ本題です。確定拠出年金について様々なことを、できるだけ分かりやすくお話ししたいと思います。
確定拠出年金の特徴
確定拠出年金は、公的年金の上乗せで受け取れる年金というのは分かりましたね。国民年金は加入が義務付けられていて、納める金額も決められています。一方、確定拠出年金は任意で掛け金は一定ではありません。
確定拠出年金には「個人型」と「企業型」の2つあります。掛け金が一定でないのは、このどちらで準備するのかでも違ってきますし、人それぞれの状況に合わせることもできるためです。では2つの違いについて見てみましょう。
個人型と企業型の違い
2つの文字を見て察しはつくと思いますが、ご自身で準備するものが個人型、企業が掛け金を負担してくれるのが企業型です。イメージができたところで、それぞれをさらに詳しく見てみたいと思います。
個人型確定拠出年金
原則として60歳から受け取れるもので、年金方式の他に一括で受け取ることもできます。掛け金は5,000円以上であれば1,000円刻みで自由に設定可能ですが、限度額が設けられていますので「いくらでも好きなだけ」というわけにはいきません。
ご自身で設定した金額を掛け金として、数種類の運用方法で将来の資産形成をしていきます。この運用方法次第で将来の受取り額が大きく変動することになり、場合によっては元本割れという事も無くはありませんので、運用方法の選択はとても重要です。
※国民年金の第1号被保険者を「第1号加入者」、第2号被保険者を「第2号加入者」、第3号被保険者を「第3号加入者」といいます。
①第1号加入者の限度額 68,000円
ただし、国民年金基金の加入者や国民年金の付加保険料を納めている方の場合はそれぞれを合計しての限度額が68,000円となります。
②第2号加入者の限度額 12,000円~23,000円
- 他の企業年金などに加入している方や公務員等は12,000円
- 企業型の確定拠出年金に加入しているが1.に該当しない場合は20,000円
- 企業年金などの加入が何もない方の場合は23,000円
③第3号加入者の限度額 23,000円
個人型確定拠出年金の加入条件
- 国内在住の20歳から60歳までの第1号被保険者で、国民年金の保険料をきちんと納めている方
- 第2号被保険者で、公務員や民間企業にお勤めの方
- 20歳から60歳までの第3号被保険者
ご自身が加入したとしてどれに当てはまるのか今一つピンと来ない、加入できるかどうかを簡単に知りたいという方は下記サイトをご覧ください。
ページ下に質問に「はい」「いいえ」で答えるだのチャートが記載されていますので、当てはまる方を選択して進んでいけば加入できるかどうかがすぐに分かります。
参考サイト:個人型確定拠出年金の加入資格および掛金額
下記記事では個人型確定拠出年金についても絞って紹介しておりますのでぜひご覧ください。
今更聞けない?!個人型確定拠出年金(ideco)の仕組みやメリットとは
企業型確定拠出年金
こちらは個人的に準備するものとは異なり、企業が原則として60歳未満の従業員に対する退職金などの目的で加入するものです。加入対象は従業員全員で掛け金は企業が納めます。※従業員が一部を負担するケースもあり
ただし、これは全ての企業が導入しているわけではありません。そして受け取れる給付額が確定している「確定給付年金」などとは異なる性質を持っているため、ちょっと厄介な一面もあったりしますが、この部分に関しては後ほどお話ししたいと思います。
国から受け取れる「国民年金」、企業が従業員のために準備している「企業年金」といのは、将来の受け取り額が決まって(約束されて)います。これに対して「確定拠出年金」はというと、掛け金は企業が負担するけど従業員自らが自己責任で運用するというものです。
個人型と同様この運用方法次第で将来の受取り額が変わってきますので、同期入社で将来受け取れる金額を少しでも増やしたいと運用していたAさんと、特に何もしなかったBさんでは、運用年数が同じでも受け取れる金額に大きな差が出る可能性があるという事です。
企業型確定拠出年金の場合は、個人的に加入したいと思って加入できるものではなく、お勤めの企業が確定拠出年金の制度を導入していれば必然的に加入するものとなり、原則として全員が対象者となりますので「自分は結構です」という訳にはいきません。
退職金との違い
企業が従業員のために掛け金を払ってくれて将来のために備えるものとして思い浮かぶのが退職金ですね。では退職金と確定拠出年金の違いは?
退職金(退職手当金)というのは、長年にわたって会社のために働いてきた従業員が定年退職などで退職する際に会社から頂けるものというのが一般的な考え方です。退職金は全ての企業にあるものではなく、退職金の算出方法や支払い方法なども企業によって異なります。
退職金は自分のお金を積み立てて退職時に受け取るのではなく、会社から通常は夏・冬の2回お給料とは別にボーナスを貰うのと同様、今までご苦労様でしたという意味あいで頂ける退職ボーナスのようなものです。したがって、通常は月々のお給料から退職金の積立てが引かれることもありません。
確定拠出年金の場合はというと、基本的には会社が掛け金を支払ってくれるのですが、それの金額を増やすも減らすも自分しだいです。ひと昔前に比べると退職金を廃止して確定拠出年金の制度を導入する企業が増えているようです。
確定拠出年金の運用
引用:pakutaso
自分の将来のために少しでも増やしたい。でも自己責任で運用するとなるとちょっと難しそうなイメージがありますね。具体的に確定拠出年金を運用するとはどういう事なのかお話しします。
運用する商品
確定拠出年金を運用するためには下記の金融商品を利用することになります。
- 定期預金
- 保険商品
- 投資信託
1.定期預金と2.保険商品は元本確保型の商品で、3.投資信託の中には国内・国外債権、国内・国外株式、国内・国外REIT、バランス型などが含まれていて元本変動型となります。
この全ての商品の中から自分で好きなものを選択するのですが、組み合わせも自由で好きな商品をいくつでも選べます。また、途中で商品を変更することも可能ですが商品選びは慎重にしないといけません。
元本確保型
元本割れのリスクがあるなら絶対に損をしない元本確保型!という考えであれば各保険会社の商品や定期預金となります。保険会社の商品というと個人年金商品もありますが、確定拠出年金の商品とは中身が異なります。
個人年金商品は将来受け取れる金額が契約時点で決定していて、例え情勢などが変わっても契約時の利率のまま変動がありません。しかし、確定拠出年金商品の場合は積立金額は決定していますが将来受け取れる金額は運用しだいです。
投資信託
投資信託というのは、たくさんの人から集めたお金をプロの運用会社が運用してくれるものです。投資と聞くと資産のある人がするものというイメージをお持ちの方もいらっしゃいますが少額から始められますし、自分にその知識がなくても始められます。
投資信託は市場などによって変動しますので、運用しだいで投資額を下回り元本割れとなる恐れがあるのです。この商品は主に金融機関や証券会社などで販売されています。たくさんの投資者から集めたお金は信託銀行という専門のところに預けられます。
実際に運用する会社から指図されたら、お金を預かっている信託銀行が株や債権を売買するという流れです。ですから、集めたお金をどう使うか(運用するか)という権限はあくまでも運用会社となります。
元本確保型で無理なく運用するのか、どうせなら少しでも多く増やすために投資をしてみるのか、これはどちらが良いとか悪いとか言えるものではありませんので、良く検討して決めるようにしましょう。
損をしないための商品選び
では、どのように商品を選べばいいのかを考えてみたいと思います。まず最初に今後のライフイベントをイメージしてみてください。結婚、子供の誕生、マイホーム購入など、自分の人生に訪れるであろうライフイベントを書き出してみましょう。
未婚の若い世代なら収入を自分の計画通り好きなように使うことができますね。若いということは年金をもらえるまでの年数が多いぶん金額も大きくなります。自分で好きに計画できるからと投資信託の商品で一獲千金的な増やし方をしようとすると大損する事だってあり得ます。
既婚者で子供はこれからという方は、いざという時の貯蓄も含めた最低限の生活費を確保しておくことを前提にして、ある程度の余裕があれば限度額いっぱいまでを目安に拠出すると良いのですが、あくまでも無理せず続けていける金額設定にします。
30代後半から40代になると一般的には結婚して子供も数人という家族構成になっていますね。若い独身の方に比べると収入は多いですが、子供の教育資金やマイホーム購入などで支出金額も多くなります。リスクのある商品ばかりに偏ってしまわないような商品選びが大切です。
投資信託商品選びの注意点
引用:pakutaso
元本確保型の定期預金や保険商品はどれも大きな差はありませんが、注意が必要なのは投資信託の商品です。上記で触れていますが、改めておさらいしておきたいと思います。
投資信託の商品を選ぶ際は、こうした情報サイトなどの人気投票結果やランキングを鵜呑みにしてはいけません。「人気ランキングの上位商品」=「儲かります」ではないのです。また、知名度の高さもおなじです。「有名な会社が扱っている(知名度がある)から」と、安易に選ぶことはやめた方が無難と言えます。
また、これまでの運用実績や分配金などは参考程度に留めましょう。過去の実績が良いからと言って、今後もずっと絶対に良いとは限りません。
投資信託の商品を知ろう
興味のない人には耳慣れない投資信託の商品ですが、中身を知ればどの商品が自分に合っているかが分かってきますので、まずは投資信託の商品がどのようなものなのかをきちんと把握しましょう。
- 国内債権…日本国内の発行体が「日本国内で日本円建てで発行する債権」で公共債と民間債に分かれています
- 国外債権…通貨・発行体・発行場所のいずれかが外国である債権
- 国内株式…日本国内に本社があって国内の債権取引所に上場している株式
- 国外株式…米国株や中国株など、海外の企業が発生する株式
- 国内REIT…国内のビル・マンション・商業施設などを複数購入して賃貸収入や収益を投資家に分配
- 国外REIT…海外のビル・マンション・商業施設などを複数購入して賃貸収入や収益を投資家に分配
- バランス型…1つに絞らず複数にバランスよく投資するもので比較的初心者向けと言われるもの
確定拠出年金の解約
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将来のためにと思って始めたものの、生活状況が変わってしまったりお勤め先が変わったりして継続できなくなったりすることも考えられますね。そんな時はどうしたらよいでしょうか。
簡潔に結論から言いますと解約はできませんし解約返戻金というようなものもありません。確定拠出年金の場合は状況が変わった場合、その状況に合わせて色々な方法があります。また、解約返戻金ではなく「脱退一時金」というものがあります。
退職した場合
企業型確定拠出年金の制度を導入している会社を退職して自営業をするという方の場合は個人型の確定拠出年金にそれまでの資産を移して運用を継続することができます。この場合は退職して6ヶ月以内に自身で手続きをしなくてはいけません。
万が一6ヶ月を経過してしまうと強制的に国民年金基金連合会へ移されてしまい、移換手数料や管理費などもかかってしまう事になります。また、一度移換された後で確定拠出年金に戻すにも手数料が発生しますので要注意です。
退職した後にすぐ別の会社へ就職が決まっていて、その会社でも確定拠出年金の制度を導入しているという場合は一番簡単で、転職先の会社にそれまでの資産が移されますので今まで通りの運用を継続できます。
では転職先に確定拠出年金の制度が導入されていない場合は?この場合は残念ながら確定拠出年金に加入することが出来ませんので、掛け金を納めることはできなくなりますが運用だけは続けることが可能です。
脱退一時金
先ほど解約のところで触れた脱退一時金ですが、基本的には自分の都合だけで解約できないことになっていますので、この脱退一時金についても色々と条件を満たしていなければ受け取ることは出来ません。
- 脱退時点で60歳未満
- 企業型確定拠出年金に加入していない
- 個人型確定拠出年金の加入資格がない
- 国民年金の第1号被保険者で保険料の全額または一部が免除されている、または猶予されている
- 国民年金の第3号被保険者である
- 会社が企業年金制度の導入をしていて対象者となっている
- 障害給付金の受給者ではない
- 脱退時の資産が15,000円に満たない
など他にもたくさんあり、脱退一時金を受け取ろうとする人のその時の状況によって実に細かく条件が設定されています。また、どれかに当てはまる方というのではなく、どの状況なのかによっていくつかの要件があり、その要件すべてを満たしている場合のみ受け取れるようになっています。
参考サイト:脱退一時金を受け取れるケース
脱退一時金の手続き
要件を全て満たしていれば脱退一時金を請求できますが、手続きは全て自分でしなければなりません。個人型・企業型それぞれの運営管理機関にて請求手続きをします。まずはそれぞれの機関にあるコールセンターなどに問い合わせてみましょう。親切に手続き方法を案内してくれますよ。
参考サイト: 運営管理機関一覧
企業型確定拠出年金のマッチング
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企業型の確定拠出年金は2012年1月の改正法で、事業主の掛け金に上乗せできるようになりました。これをマッチング拠出といいます。
マッチング拠出の内容
- 限度額は事業主と合計で55,000円まで
- 拠出は毎月ごとでボーナス一括納付等はできない
- 掛け金の金額変更は原則として年1回のみ(特例措置あり)
- 加入者の掛け金は全額が所得控除
余裕がある方はマッチング拠出で更に将来の受け取り金額を増やすことが可能です。ただし、やはり自己責任での運用ということに変わりはありませんので、よく検討してからにしましょう。
加入するメリット・デメリット
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何にでもメリットとデメリットがあるように、確定拠出年金だってもちろん、メリットもあればデメリットもあります。
確定拠出年金のメリット
- 毎月の掛け金は全額が所得控除の対象となり年末調整や確定申告などで戻ってくる
- 年金として受け取れるようななった際は公的年金等控除が適用される
- 投資信託の分配金や運用利益は非課税
- 途中で解約ができないので頑張ってなんとか継続できる
- 万が一自己破産に陥っても資産とはみなされず保護される
- 年金の受取時は税金面で優遇措置がある
確定拠出年金のデメリット
- 貯まり分を引き出したり簡単に解約することが出来ない
- 様々な場面で手数料などがかかる
- 運用方法しだいでは元本割れの恐れがある
- 住宅ローンで減る控除適用額が減ってしまう
- 長期にわたって継続した場合や高額を受け取れる場合は税金が発生する可能性がある
確定拠出年金の改正法
日本の確定拠出年金制度は2001年に導入されました。導入当時から加入者は少しずつ増え始め、企業型確定拠出年金・個人型確定拠出年金ともに2017年現在も増加し続けているようです。
しかし、まだまだ確定拠出年金の制度を知らない方も多くいらっしゃるのが現実で、制度を知っていてもいろいろと面倒そう、ややこしそう、という理由や現実的ではないという印象もあり、また加入したくても加入資格がないなどで加入者の伸び悩みなどもあります。
そこで、確定拠出年金の制度が2017年1月から改正法によって更に加入者を増やそうという動きとなりました。これまで企業年金に加入している方や公務員は加入資格がありませんでしたが、この改正法でどちらも加入できるようになりました。
改正法の主な目的とは?
企業年金の普及と拡大を主な目的としています。企業の場合、色々な手続きを行うのは担当部署になりますが、事務担当者が不足しているような従業員が100人以下の中小企業では負担が大きかったため、「簡易型DC(確定拠出年金)」という制度ができました。
企業型確定拠出年金や企業年金を導入していない中小企業に限り、個人型確定拠出年金に加入している従業員の拠出に追加して事業主が追加で拠出できる「個人型DCへの小規模事業主掛金納付制度」ができました。
2018年1月からは掛金の支払い方法も変わりました。これまでは毎月の支払いで、もしも拠出出来ない月があった場合はその月は拠出無しとなっていましたが、年払いや半年払い、遅れて後から追加払いなども可能です。他にもいろいろと変わりましたので、下記サイトをご覧ください。
参考サイト:確定拠出年金法等の一部を改正する法律案
まとめ
いかがだったでしょうか。自分のために自分で準備する個人型確定拠出年金と、そして企業が従業員のために導入している企業型確定拠出年金のことを理解できたでしょうか。
メリットやデメリットも全て理解したうえで無理なく続けていけば、税金が安くなったりする優遇措置もありますので、いろいろと商品も比較して自分に合った確定拠出年金を選択してください。