皆さんは毎月のお給料明細の金額を細かく見ていますか?今回は、ぜひ皆さんがお勤め先から毎月もらう給料明細を見ながら読んで頂きたい、標準月額報酬のお話です。
お勤めをされている方なら標準月額報酬という言葉は聞いたことがあると思いますが、それが一体どのようなものなのかをきっちりと理解している方は多くないようですので、ここから標準月額報酬について分かりやすくお話ししようと思います。
引用:photo-AC
標準月額報酬って何?
引用:photo-AC
健康保険法
標準月額報酬は、健康保険法という法律の第41条で定められています。
保険者等は、被保険者が毎年7月1日現に使用される事業所において同日前3月間(その事業所で継続し て使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が 17 日未満である月があるときは、その 月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を決定する。
引用:健康保険法
毎月のお給料明細を必ずチェックしている方なら、控除の項目(差し引かれている金額の部分)を見ていて「あれ?」と疑問に思ったことはありませんか?お手元に明細をお持ちでしたら「健康保険料」や「厚生年金」の金額に注目してください。
毎月きちんと明細の中身を見ている方はお気づきだと思いますが、これらの控除額はずっと一定ではありませんよね。この金額を決めるのが今回のテーマ「標準月額報酬」なのです。では、標準月額報酬がどのようなものなのかを更に詳しく見ていきましょう。
標準月額報酬が存在する理由
毎月のお給料が全く同じという方はいらっしゃいますか?ほとんどの場合、基本給、交通費、残業代の他に出張手当てや資格手当て、住宅手当てなど、企業によって様々な手当てもあったりします。その合計(総支給額)は毎月違うのが一般的ですね。
極端な例を挙げると、営業職の方などは成績に応じて歩合給というものがプラスされます。この歩合ひとつ取ってみても毎月同じではありません。そこで標準月額報酬が存在するのですが、そう言われてもまだまだピンと来ないかもしれませんが、少しづつ話しを進めます。
どうやって決まるのか
お給料というのは毎月同じではありませんし、同じ職場であっても一人一人違うのです。その一人一人異なるお給料に対して毎月「健康保険料」や「厚生年金」の計算をするのはとっても大変なことです。そこで、お給料の総支給額に応じて等級を決めています。
この等級によって決まる金額が「標準月額報酬」なのです。そして、この標準月額報酬をもとに控除する金額が決まるという訳です。等級は各都道府県によって多少異なりますので、ご覧になりたい方は下記サイトでお住まいの地域を選択すれば見る事ができます。
参考サイト:全国健康保険協会 健康保険・厚生年金保険の保険料額表
ここまでくれば標準月額報酬が存在する理由も、金額の決め方も理解できてきましたね。では、標準月額報酬の「標準」という部分に関してお話しします。そもそも標準という言葉は、いくつかの平均値というような意味あいですね。ですから標準月額報酬の標準は、月額の標準という事になります。
では、いつからいつまでの月額から標準を出すのでしょうか。1年間の標準?、それとも半年間の標準?実はそういう区切りで決めるのではなく、原則として毎年4月・5月・6月の3ヶ月間の収入をもとにして標準を出しているのです。つまり、「4月の収入+5月の収入+6月の収入÷3」これで出た金額が標準月額報酬額となるのです。
何故3ヶ月間だけなの?
ここまで読んで頂いた方なら同じ疑問がわいているのではないでしょうか。どうして4月・5月・6月のたった3ヶ月間なの?という疑問。だって1年は12ヶ月あるのに、その3ヶ月間の報酬だけを見て1年間の標準月額報酬を決めてしまうのはどうなんだろうと思いますよね。
しかも、4月~6月というのはどうやって決まったのでしょうか。なぜ他の月の報酬は見てくれないのでしょうか。実はそれらにはちゃんとした理由があったのです。毎月の報酬はバラバラなので、全従業員の標準月額報酬額を毎月のお給料から計算するのはとても大変なことです。
では、毎月ではなく1年間分を12で割れば良いのでは?それなら本当の標準月額報酬になるのでは?そうなると、中途入社や季節従業員、パートタイマーなど様々な雇用形態や働き方があるので、企業側の事務負担がとんでもないことになるのだそうです。
だから1年の4分の1である3ヶ月間を基準としているのですね。でも、どうして4月~6月なのでしょうか。職種によっては4月~6月が繁忙期の企業だってあります。個人で見てみても、一番気候の良いこの時期にバリバリ働いて他の月より稼いでいる人だっているはずですよね。
何故4月~6月なの?
これにも理由がちゃんとあります。実はこの時期というのは、一般的な統計でいうところの「1年間の中で報酬が比較的安定している」という3ヶ月間なのだそうです。実際はそうでないという職種などがあっても、あくまで一般的な考え方としてそう決まっているのだそうです。
参考..標準月額報酬額一覧
標準月額報酬は47都道府県によって金額が若干異なりますので、東京都の金額を参考に見てみます。尚、下の表は平成29年4月から適用となるものです。また、表はまだまだ下に続き50等級までありますが、参考として上部のみにしています。
短時間勤務の場合
誰もが必ず全ての稼働日数分の出勤をしているとは限らないですね。計算基準となる4~6月の間に月の途中で入社した方、パート勤務の方、派遣や請負などや月の途中で退社した方などの場合はどうなるのでしょうか。
標準月額報酬を計算する際の決まりとして「基礎日数」というものがあります。簡単にいうと勤務した日、出勤した日というイメージですが、この基礎日数が17日以上ある月をもとに計算することになっています。ですから基礎日数が足りない短時間勤務の場合は下記のようになります。
- 基礎日数が3ヶ月間とも17日以上ある…3ヶ月間の平均額
- 1ヶ月だけでも17日以上勤務した月がある…17日以上勤務した月の平均額
- 3ヶ月間すべてが15日以上17日未満…3ヶ月間の平均額
- 15日以上17日未満の日が1ヶ月以上ある…15日以上17日未満の月の平均額
- 3ヶ月とも15日未満である…従前の月額報酬をもとに算出
その他の決め方
上記のように3ヶ月間の報酬を平均する決め方は「定時決定」といって、ここで決まった標準月額報酬はその年の9月から翌年の8月までのものとなりますが、実はこの他にあと3つ決め方があります。
【資格取得時決定】これは主に新しく会社へ就職した際などが該当します。新たに就職したという事は、その会社での勤務実績がないわけですから健康保険も厚生年金も新たに加入するという事になりますね。その時の「被保険者資格取得届」によって決まります。
【随時決定】通常は定時決定で決まって1年間変わることはないのですが、ある月だけお給料が跳ね上がったり逆にガクンと下がったりした場合は、平均的な金額を出すために随時変更されることがあります。
【育児休業等終了時改定】出産後に育児休業を取得して長期のお休みをしていた人が職場に復帰した際、育児休業前のお給料を下回った際に変更されるものです。ただし、下回った金額が随時決定のようにガクンと低下していなくても変更可能です。
対象となる報酬
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上記の計算方法で決定する標準月額報酬、収入として入ってくるもの全てが対象になるのかというとそうではありません。対象となるもの、ならないものを見ていきましょう。
現金で支給されるもので対象となるもの
- 基本給
- 通勤手当(交通費)
- 残業手当、資格手当、住宅手当、家族手当、食事手当、職務手当、役職手当、早朝・深夜手当、皆勤手当、生産手当、育児休業手当、介護休業手当、当直手当、出張手当など
- 年4回以上のボーナス(賞与)※名目がこれ以外でも該当します
現物支給で対象となるもの
- 社宅や独身寮など
- 自社製品
- 食事や食券
- 通勤のための公共交通機関の回数券や定期券
現金で支給されるもので対象とならないもの
- 退職金
- 解雇予告手当
- 慶弔に関わる現金(結婚祝金、香典、見舞金など)
- 健康保険の傷病手当金
- 労災の休業補償金
- 株主配当金
- 出張のための旅費、交通費
- 年3回までのボーナス(賞与)※名目がこれ以外でも該当します
現物支給で対象とならないもの
- 本人からの徴収額が標準価額によって算出された金額の3分の2以上となる食事代
- 本人からの徴収額が標準価額によって算出された金額以上の住宅費
- 仕事をするための作業服、事務服、白衣などの被服費
標準月額報酬が高いとどうなる?
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収入が多いということは、それだけ標準月額報酬が多いということになりますね。という事は、当たり前ですがお給料をたくさん稼いでいる人の方が厚生年金や健康保険料もその分多く納めているという事になります。たくさん納めている分何かしら優遇されたりするの?という方がたまにいらっしゃいます。
答えはNOです。そのような優遇措置のようなものは一切ありませんし、多く納めているからといって傷病手当金などが多くもらえたりする事はないのです。誰でも一律ではなく多く稼いでる人は多く納めるというのは、所得税などと同じですね。
純粋な収入じゃないもの
所得が高い人は等級が上がって、雇用保険料も厚生年金も多く納めることはわかりましたが、標準月額報酬を決定する際の対象として交通費(通勤費)があります。これはあくまでも会社を往復するために支給されるものですよね。ですから純粋な収入とはいえません。
支給する交通費の金額の決め方は企業によって様々です。地図上で自宅から職場(勤務地)までを一直線に結んだ距離から算出したり、自宅の最寄り駅から職場の最寄り駅までの実際の往復交通費を実額で支給したりと実に様々です。そこでちょっと考えてみて下さい。
例えば、AさんとBさんの基本給その他の手当てなどがほとんど同じだとします。2人の勤めている会社では最寄り駅から最寄り駅の算出方法で交通費を支給していると仮定します。Aさんは自宅の最寄り駅から2駅という近さに対してBさんは他県から乗り換えを繰り返して出勤しています。
当然2人に支給される交通費には大きな差が出ますね。その交通費は標準月額報酬の対象となるので、AさんとBさんの総支給額がほぼ同じでも、控除される健康保険料、厚生年金などの金額が異なってしまう、つまり遠くから時間をかけて通っているBさんの方が手取りのお給料が少なくなるという事です。
何だか納得がいかない気もしますが、標準月額報酬の対象になるものを1つ1つ見てみると交通費だけじゃなくいくつもありますね。それでもこれはルールのようなもので、誰がなんと言ってもどうにかなるようなものではありません。でも、出来る事なら何とかしたいと考えてしまいますね。
交通費が対象となる理由
そもそも、なぜ交通費が対象になっているのでしょうか。実際に働いた分に対するお給料や残業代、深夜手当などのみを対象にしてくれたらいいのに…と思いますよね。一言で言ってしまうと「決まっているのだから仕方ない」のですが。
これは何故という疑問に対しての決定的な回答のようなものはないようですが、調べてみると諸説あるようです。例えば交通費の計算方法ですが、都市では公共交通機関を利用して通勤する人が多いですね。そうでない地域の場合はマイカー通勤が主になります。
公共交通機関であれば計算方法は色々でも算出は比較的簡単といえます。でもマイカー通勤の人に分け隔てなく交通費を与えるとなるとどうでしょうか。もちろんガソリン代という事になるのですが、どんな車を使用するかでガソリン代も変わってきますね。
車種によって燃費なども違いますし、公共交通機関を利用している人よりも確実に走行距離の増え方も多いので、車のことを考えると公共交通機関を利用している人と比べてしまうと何となく不公平感が出てしまいます。
ですから、どんな通勤方法でも会社によって異なる算出方法でも交通費は報酬として考えられているという説があります。マイカー通勤の方の事を思うとガソリン代だけでなく、お勤め先に従業員用の駐車場が無い場合は近くに月極駐車場などを借りる事になります。
そうなると、交通費というのは距離などから算出してガソリン代として支給されるのですが、駐車場代は含まれていませんので、絶対に不足ですよね。そういう不公平感をなくすためなのだそうです。
でも、通勤途中に事故に遭ったりした場合は勤務時間以外でも労災が適用になります(通勤災害)。そういう事も含めて大きなくくりで考えれば納得ですね。ただし、通勤途中での労災は実際の通勤ルートで起きた事故やケガなどに限られています(一部例外あり)。
参考サイト:通勤災害について
将来受け取れる年金額に影響
標準月額報酬で算出された保険料などを毎月お給料から控除されるわけですが、上記のように交通費が多く支給されているばっかりに損をしたようなイメージがついてしまいましたね。しかし、多く支払った分は将来もちろん年金として受け取れる額に影響します。
つまり、Bさんは手取り額がAさんよりも少なかった分、年金額はAさんよりも多く支給されることになるのです。ですから、標準月額報酬で算出されて控除される金額だけで不平不満を言ったり目くじらを立てはいけませんね。
失業した人はどうなるの?
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では、失業中の方は一体どうなるのでしょうか。失業中といっても色々な状況によって異なりますので、それぞれのケースごとに見ていきましょう。
失業中の健康保険と年金
標準月額報酬は、会社勤めの方の厚生年金の保険料や健康保険料を決定するためのものですね。では失業中の方はというと基本的には社会保険料ではなく国民健康保険の保険料を、厚生年金ではなく国民年金の保険料を別途納めることになっています。
一定の条件を満たしていれば保険料が一部免除または全額免除になったりします。問題はその後で新しい会社に就職(中途入社)した場合の標準月額報酬です。通常は「資格取得時決定」で金額が決まりますが働き方は人それですので、まずはそれぞれの働き方による算出方法を見てみます。
①1ヶ月単位、1週間単位などの一定期間で報酬が決められている場合は、被保険者資格を取得した時点の報酬額をその期間の日数で割り、1日分の日額を出したあと改めて30日分で算出します。
②日雇い、請負、出来高などの場合は、被保険者資格を取得した月より前の1か月間にその会社で、同じ職務に従事していて同じ報酬を受ける人が支給されている報酬の額を平均した金額となります。
③上記①や②では算出ができないような場合は、被保険者資格を取得した月より前の1か月間に、勤務先のある地域で同じ職務に従事していて同じ報酬を受ける人が支給されている報酬の額となります。
ただし、①~③の中で2つ以上の働き方をした場合は、それぞれので算出した金額の合計金額となります。
退職して別の会社に就職した場合
では、勤めていた会社を退社して別の会社に就職したら標準月額報酬はどのように算出するのでしょうか。繰り返しになりますが、4~6月に支給されたお給料から算出されたものがその年の9月から翌年の8月まで適用されるのですよね。では7月に退社したらそれまで勤めていた会社で支給された4・5・6月のお給料で計算する?
実は、退社した時点でその会社の被保険者資格は喪失します。そして、その後再就職した会社で新たに被保険者資格を取得するのです。ですから、中途入社の場合は前の会社で貰っていたお給料は関係なく、再就職した会社で第1回目に貰うお給料の金額をもとに算出します。
標準月額報酬を下げたい!
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標準月額報酬(等級)が低くなれば、その分控除される健康保険料も下がる事になります。でも等級が下がるのと並行して収入が減ってしまっては困りますよね。収入は減らさずに標準月額報酬だけを下げる方法は無いのでしょうか?
標準月額報酬を下げる方法
控除されるものの中で金額が大きく一番痛手になっているのが健康保険料と厚生年金ですね。ならば、この金額を少しでも下げて手取り額を増やすにはどうしたら良いのでしょうか。そんな方法があるのなら知りたいですね。
その前に、ここまで色々とお話ししているのですが、標準月額報酬についてちゃんと理解できていればおのずと策が見えてきますので軽くおさらいです。標準月額報酬を決定する基準は4・5・6月のお給料でしたね。これで9月からの1年間の厚生年金と健康保険料が決定します。
という事は、極端に言ってしまうと基準となる4・5・6月のお給料が低ければ控除される金額も下がるという事になります。それはそうですが、その3ヶ月間だけお給料を下げるなんて事はできないのでは?
残業代で調整
標準月額報酬の対象になる手当ての中で、自分の都合だけで調整できるのが残業代です。対象となる3ヶ月間だけでも残業を極力控えるようにすれば、当然ですが等級を下げることは可能となります。ただし、「今月はこれぐらいにしておくか」などと適当に調整してはいけません。
等級は、前述のように「標準月額報酬額表」によって決まるのです。たった1円でも等級は変わりますので、きちんと金額を計算する必要があります。ただし、この方法は実際に出来る人と出来ない人がいます。
職種などによって残業を調整できない、先輩が残業で忙しそうにしているのに新人の自分がさっさと帰宅するわけにはいかないなど、実際に残業を調整できる人は意外と少ないようです。また、そのような人がやってしまいがちな過ちも多いと聞きます。
時期をずらすのは×
4・5・6月の3ヶ月間、「実際に残業をしないわけにはいかない」ということで、その3ヶ月間に残業した分の残業代を翌月以降にずらして支給してもらう。これをやってしまうと完全に違反です。ではやはり自分には無理、と諦めてはいけません。
年次有給休暇の活用
お勤めをされている方で、一定の条件を満たしている方全てに与えられている年次有給休暇。これを実際に与えられた日数を全て消化しているかというと、働き者の日本人は多くの場合使い切らずに捨てることになってるという事実があります。
気持ち的には全てを使い切りたくても、みんなの手前取りずらいとか、本当に忙しくて取れないといったような状況だったりします。これを3ヶ月間の間に取るようにしてみましょう。遠くの親戚の冠婚葬祭や、田舎での同窓会などを理由にすれば誰にも気兼ねなく休むことが出来るでしょう。
この3ヶ月間分は手取りのお給料が当然のことながら減ってしまいます。しかし、その後9月~8月までの厚生年金や健康保険料が低くなるので、トータルで見れば収入は減らずに標準月額報酬額を下げる事ができるのです。
注意点
もし、上記の方法を実践できたとしても意外な落とし穴があります。それは「随時決定」です。収入を上げたくない3ヶ月間が終わった途端、遅れを取り戻すかのように一気に残業代を稼ごうと頑張ってしまうと、随時決定で等級が変更されてしまう可能性がありますので注意しましょう。
そして、随時決定にも引っかからないように調整しながらうまく立ち回ったとします。実は、その時はいいとしても将来受け取れる年金や遺族年金、障害年金などの受取金額に影響を及ぼす可能性もあります。
まとめ
今回は少し難しい標準月額報酬のお話しでしたがいかがだったでしょうか。
よくよく考えたら理不尽と思える点もありますが、私たちのための制度として国が考えてくれている制度なのですから仕方がありません。これまで標準月額報酬のことを知らなかった方も、知っている方にも、この記事が少しでも参考になれば幸いです。