医療費控除はいくらからもらえる?申請書類の書き方や注意点

皆さんは、自分が年間どれぐらいの医療費を支払っているか把握していますか?病院なんて何年も行ってないという方は別として、「持病があって定期的に病院通いをしている」という方はもちろん、大きな病気で入院や手術を受けたという方は必読です。

今回のテーマは「医療費控除」です。現在は健康でもいつどうなるかは予測不可能ですので、そうなった時のために知っていて決して損はありませんので「自分には関係ない」と思っている方も、ぜひ最後まで読んでみてください。

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医療費控除って何?

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「医療費控除」という文字からも察しはつくかと思いまずが、よく「高額医療費制度」と勘違いされる方がいらっしゃいます。中身を理解できれば、おのずと違いもハッキリ分かるようになりますので、まずは「医療費控除」のことを詳しく見ていきましょう。

「医療費控除」を簡単に説明すると、「その年の1月1日から12月31日までにかかった医療費の合計金額が一定の金額より多くなった時、所定の手続きをすることで還付金が貰える」というものです。

よくある勘違い①

上記で「一定の金額より多くなった時」とありますが、実はこの部分を「10万円を超えた時」と思っている方が大変多く、サイトなどでもよく見かけます。実は10万円という金額は一般的な目安であるだけで、人によっては別の金額になる場合があるのです。

ですから、あえて「一定の金額より多くなった時」という書き方をしました。この勘違いをしたままですと、実は還付金を受け取れる対象だったのに「10万円未満だったから」と手続きをせず損をする可能性もあるという事です。詳しくは後述で説明します。

よくある勘違い②

2つ目は序盤で触れた高額医療費制度との勘違いです。高額医療費制度も、医療費が高額になった時に手続きするものというイメージがあるため勘違いしやすいようです。しかし、双方の文字を見比べると「制度」と「控除」ですから、全くの別物という事は字を見るだけでも分かりますね。

どちらも医療費に関して自己負担が軽減されるという点では同じなのですが、どのような時に手続きをして、高額になった医療費がどのような形で軽減されるのかという点でそれぞれ異なってきます。こちらについても後述で違いを分かりやすく説明します。

医療費控除の仕組み

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ここから、医療費控除について詳しくお話ししていきたいと思います。出来るだけ分かりやすく説明したいと思っていますが、それでも「?」となる部分がある方は参考サイトも合わせてご覧ください。

ここで医療費控除のことを一通り理解できれば、勘違いしやすい上記①と②についても分かってくるはずです。

医療費控除とは

医療費控除というのは、はじめにお話しした通りその年(1年間)にかかった医療費の合計金額が高額になった事を申告すれば、その一部が還付金として戻ってくるというもので、正確には税金から控除されるというものです。

これは本人だけではなく、家計を共にしている世帯全員(配偶者や子供など)の分を合計する事ができます。この部分を知らず、「自分は対象外」と思って手続きをしないで損をしている方もいらっしゃるようです。

家計を共にしているというのは、なにも同居している必要はありません。例えば、他県に離れて学生生活を送っている子供さんも含まれるのです。損害保険などでもよく「生計を一にする」という言葉を使いますが、国税庁ホームページを見て見ると以下の記載になっています。

「生計を一にする」とは、必ずしも同居を要件とするものではありません。例えば、勤務、修学、療養費等の都合上別居している場合であっても、余暇には起居を共にすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。
なお、親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。

参考サイト:国税庁ホームページ

一定の金額とは

では、「一定の金額より多くなった時」について説明します。前述のように「10万円を超えたら」と勘違いしている方が大変多くいらっしゃるのですが、人によっては10万円未満でも該当しますので正しい言い方ではありません。医療費控除に該当するかどうかは以下の2ケースで判断します。

1.生計を共にしている全員が支払った医療費の合計金額が、年間で10万円を超えた場合

まず、これは通常みなさんが思っている通りのケースです。繰り返しになりますが、個々それぞれの医療費ではなく世帯全員分の合計金額です。例えば、お父さんが年間50,000円、お母さんが40,000円、他県で暮らす子供が20,000円なら合計110,000円なので申請できます。

2.年間所得の総額が200万円未満の人は、その総所得金額の5%

これがあまり知られていないというか、知らない人がとても多いのです。所得が少ない人にとっては医療費に限らず出費はとにかく抑えたいですよね。でも、医療費が10万円を超えないと対象外なら、よっぽどの事がないと病院へ行くのを我慢しているような低所得の世帯には何のメリットもないように思えてしまいます。

でも、所得が低い方にはそれなりの措置があるという事なのです。ですから、一概に「10万円を超えたら」というのは正しくないという事を知っておいて欲しいと思います。そして、ここまでお話しした内容に該当している事が控除を受ける条件となりますので、合わせて覚えておいてください。

上記で勘違いされやすい①についてはこれで解決しましたね。年間の医療費が10万円を超えていなくても該当する人も居るということが分かりました。

高額医療費制度との違い

ここから、②の高額医療費制度との違いをお話しします。高額医療費制度というのは、その月1ヶ月間にかかった(支払った)医療費が一定の金額より多くなった時、その人の所得状況に応じて後からお金が戻ってくるという制度です。

分かりやすく簡単に言ってしまうと、その人の所得に応じて「あなたは医療費を○○円までしか負担しなくていいですよ」的な事です。医療費というのは、所得に応じて負担する上限が決まっているので、その金額よりも多く支払った分は手続きすれば戻って来るのです。

医療費控除というのは世帯全体の年間の医療費合計が10万円を超えた部分(低所得の場合は5%)に対して控除があるのに対して、高額医療費制度は個人が上限額を超えて支払った分が戻ってくるという制度なので、そもそもの目的から違うという事になります。

医療費控除の対象

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医療費として支払った全てのものが医療費控除の対象かというと、残念ながら対象とならないものもあります。そこで、医療費控除の対象となるもの、ならないものをまとめて見てみましょう。

画像のクマさんのように大ケガをしても、完治するまでの間にかかった代金の中には対象外となるものもありますので、対象になるもの、ならないものはきちんと覚えておいてください。

対象になるもの

対象となるのは、あくまでも病気やケガの治療を目的としたものに限られます。

病院に支払った診療費や治療費はもちろんですが、治療をするうえで医師が必要だと判断して作成された診断書代や、差額ベッド代(医師の指示によるものに限る)、松葉杖や義足の購入費用、近視矯正手術、メガネやコンタクトレンズの購入代金なども対象となります。

他にも、医師が治療上必要と判断したものであれば、マッサージやはり治療、お灸などで通院した場合の治療費も対象となりますし、歯科治療ももちろん対象となります。

また、出産に関するものも対象となります。妊娠中の定期検診も出産費用も対象となりますし、万が一流産した場合の手術費用や入院費用から通院費用、分娩介助料はもちろんですが、母体保護法に基づいていれば妊娠中絶した場合の手術費用も対象となります。

対象とならないもの

上記のような治療を目的としないものは基本的に対象にはなりません。医師が治療と認めないもの、例えば美容整形などは治療ではありませんので対象ではないという事を覚えておきましょう。

他に対象とならないものは、予防接種の費用、自分から希望して個室に入った場合の差額ベッド代、自らの判断で購入した眼鏡やコンタクトレンズなどの購入代金、治療目的ではない検査(人間ドックや定期健康診断など)、歯の治療ではない審美歯科なども対象外です。

針治療やマッサージなども同様で、医師が必要だと判断したわけではないのに自主的に通っても医療費としては認められないという事になっていますのでご注意ください。

つまり、お医者さんが「治療のためには必要」だと判断したものは対象になって、「お医者さんには言われてないけど、あれば便利かも」などと自分の意思だけで購入したものなどは対象外というふうに覚えておいてください。

当たり前ですが、入院するにあたって必要と思われるパジャマやスリッパ、ティッシュペーパーや洗面道具などは、治療を目的とした入院であっても全て対象外です。

医療費控除の控除額は?

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医療費控除についてはだいぶ理解できたかと思いますので、次は医療費控除で控除される金額のお話しです。実際に手続きをしたらどれぐらい還付されるのか、そして上限額などはあるのかなど、金額のことについて詳しくお話ししていきたいと思います。

控除額の計算方法

医療費控除の控除額は、実際に自分で計算できます。計算式もとても簡単ですのでご覧ください。まず、下記①と②の金額を出します。

①.その年(1月1日から12月31日の間)1年間に支払った、生計を共にしている人全員の医療費の合計金額

②.生命保険などに加入している場合は保険会社から支払われた給付金の合計金額

上記①.から②.を引いて出た金額から、10万円(または5%)をさらに引けば医療費控除の金額が算出できます。ちなみに、この控除金額には上限額というものがあって、最高200万円までとなっています。

還付される金額

ここまで計算できましたら、算出した「医療費控除の金額」×「所得税率」で実際に還付される金額が出ます。所得税については下の表をご覧ください。

課税される所得金額税率控除額
195万円以下5 %0円
195万円以上  330万円以下10 %97,500円
330万円以上  695万円以下20 %427,500円
695万円以上  900万円以下23 %636,000円
900万円以上  1,800万円以下33 %1,536,000円
1,800万円以上 4,000万円以下40 %2,796,000円
4,000万円以上45 %4,796,000円

※平成27年分以降の税率

参考サイト:国税庁ホームページ 所得税の税率

還付例

具体的に見てみる方が分かりやすいと思いますので、Aさんのお宅でかかった医療費控除の還付金がいくらなのか、計算してみましょう。

  • Aさんのお宅で1年間に支払った医療費は世帯全員の合計40万円
  • 課税される所得金額は400万円で税率は20%
  • 生命保険からの給付金が10万円

400,000円(医療費)-100,000円(給付金)-100,000円=200,000円(医療費控除の金額)

200,000円(医療費控除の金額)×20%(所得税率)=40,000円(還付される金額)

計算式さえ知っていれば、実際にいくら還付されるのかまで簡単に自分で計算できてしまいます。また、①支払った医療費の合計金額、②所得金額、③生命保険からの給付金、の3つの金額を入力するだけで自動的に計算してくれるサイトもありますのでシミュレーションしてみてください。

参考サイト:医療費控除簡易計算

セルフメディケーション税制

この制度をご存知でしょうか。これも医療費控除の1つで、2017年1月から新たに運用されることになった制度なのですが、こちらの場合は病院に支払ったものではなく薬局などで購入したお薬の代金に対するもので、これも世帯全員分を合計できます。

ただし、どんなお薬でも対象となるわけではなく、「OTC医薬品」に限られています。その購入代金が年間12,000円を超えた場合に控除してもらえるので、病院には行かず薬局のお薬に頼っている方にはとてもありがたいものです。

参考サイト:国税庁ホームページ

まだ新しい制度なのでご存知ない方も多いと思いますが、医療費控除は病院で支払った医療費だけが対象ではなくなったという事を覚えておいてください。

医療費控除の申請方法

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ここからは医療費控除の手続き方法を見てみましょう。申請用紙を実際にダウンロードしてみましたので、計算方法についても更に詳しく見ていきたいと思います。記入見本ももちろんあるのですが、見本を見なくても記入できる程度の分かりやすいものです。

記載するのは、誰の医療費か、どこの病院か、いくら支払ったのかなどとなっています。下の図は私が実際にダウンロードして、記入箇所を分かりやすくするため赤字にしてみました。※A4縦なので、そのままだと見にくいので、見やすくするため上下半分づつに分けて掲載します。

上半分です。ここに病院の情報などを記入していくのですが、実際の記入欄は行がたくさんありますので、よほどの事がなければ1枚で足りるのではないでしょうか。黄色の「A」「B」には、その列の合計金額を記入します。

こちらが下半分になります。AからGまでの枠に金額を入れていきますが、まずは上記で黄色の「A」「B」に記入した金額をそのままAとBに入れます。その後Gまでそれぞれ金額を入れます。

「C」…「A」から「B」を引いた金額

「D」…所得金額の合計

「E」…「D」×0.05 ※もしマイナスになる場合は「0」

「F」…「10万円」or「E」を比べて少ない方の金額

「G」…「C」から「F」を引いた金額

最後の「G」が医療費控除の金額になります。もしもマイナスになった場合は控除の対象外という事になります。上記で還付金までを計算しましたが、実際の記入例を見れば簡単に計算できることが分かりますね。また200万円が上限額ですので、それ以上になったとしても200万円を超えて申請はできません。

どこに申請するの?

記入が全て記入できたのはいいけど一体どこに提出するのでしょうか。市町村の窓口?それとも勤め先に提出?実は高額医療費の申請などと違って、確定申告での手続きとなります。必要となるものは上記の申請用紙の他にも色々あります。

【申請に必要となるもの】

  • お勤め先でもらった源泉徴収票など所得が分かるもの
  • 申請する人全員の医療費額が分かるもの(病院の領収書など)
  • 通院などで利用した公共交通機関やタクシー代などの金額が分かるもの
  • 確定申告の書類
  • 本人確認ができる身分証明書など
  • マイナンバー ※2017年以降の確定申告にはマイナンバーが必要となりました。

3つ目に関してですが、医療費控除では通院で公共交通機関を利用したりタクシーを利用しなければならなかった場合、それにかかった金額も控除の対象となります。

全てのものがそろったら管轄の税務署へ申請するという流れです。確定申告の書類は、下記からもダウンロードできますが、必要なのは「確定申告書A」の方になります。

参考サイト:国税庁ホームページ 申告書用紙

申請するタイミング

確定申告というと、ご存知のように毎年2月16日から受付けがスタートします。しかし、医療費控除の申請に関しては対象となる年の翌年であればいつでも申請することが可能です。翌年の2月16日を待つ必要はないのです。

そして、もし申請を忘れていたとしても5年前まで遡って申請することもできます。逆に言うと、申請する期限は5年間ということになります。

申請に関する注意点

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いろいろとお話ししてきましたが、全ての必要書類や添付物を揃えて税務署へ提出する際に注意しておかなければいけない事がいくつかありますので、最後に注意点としてまとめたいと思います。

【申請前に確認しましょう】

まず生命保険に加入している方、計算方法のところで気が付いたと思いますが、入院給付金や手術給付金などの各種特約を付加していると、それぞれに対して給付金が支払われますね。これは、その中のどれを記載したらいいの?と聞かれる方がいらっしゃいますが全てです。

入院給付金だけでいいとか、収入保障部分は医療と関係ないから該当しないと思っている方は注意してください。給付金として支払われた(受け取った)ものは、全て記入しましょう。また、複数の保険会社から給付があった場合も全て合算金額ですので覚えておいてください。

見てお分かりのように、保険会社から給付金を受け取った場合は実際にかかった医療費から差し引くため損だと考える方がいらっしゃいますが、これを意図的に書かないで申告書を作成した場合は「脱税」という行為に当たるそうです。

【保管しましょう】

私もそうだったのですが、病院で支払いをした後にもらう領収書を「要らない」からと捨ててしまっていませんか?もしかしたら急に入院や手術をすることになったり、事故に遭うことだって皆無ではありませんので、万が一のためにせめて1年間分は保管しておく事をオススメします。

もしも年末などに急病になったして、それまでの領収書を捨ててしまっていた場合は金額が把握できません。かかった病院によっては手書きで再発行してくれるところもあるようですが、確定申告などで二重に不正使用されない策として、ほとんどの場合はそれもできません。

このような場合は、「領収額証明書」や「年間領収書」というものを発行してもらえますので、これを使用するのですが、病院ごとに手数料がかかります。金額はまちまちですが安くても500円、中には1,500円以上かかる病院もあるようです。

病院ごとですので、手間と手数料をかけて還付される金額よりも手数料の方が多くなってしまう事だってあるのです。領収書は1年ごとに処分するように心掛けて、大切に保管するようにしましょう。

【セルフメディケーションについて】

病院に行くまででもなく、薬局のお薬で済むような軽い症状であればセルフメディケーション制度を利用できるというお話しをしましたが、薬局のお薬といっても全てが対象ではありません。前述で触れたようにOTC医薬品だけに限定されています。

下記サイトで確認できますが、対象になっているお薬にはセルフメディケーションの対象である事が分かるように専用のマークが付いています。

参考サイト:日本一般用医薬品連合会

病院で貰う処方箋ですが、これは薬局で処方されたからといってセルフメディケーションの対象にはなりません。処方箋でもらったお薬はあくまでも医療費控除の方で使うようになりますので、薬局のお薬と混ぜて計算しないよう注意してください。

また、「医療費控除」と「セルフメディケーション制度」は併用することができない(どちらか一方を選択になります)ので、これもきちんと覚えておいてくださいね。

参考サイト:国税庁ホームページ セルフメディケーション税制と従来の医療費控除との選択適用

まとめ

いかがだったでしょうか。今回のテーマは「医療費控除」でしたが、セルフメディケーションという制度もできて医療費に関する負担がますます軽減されるのはとてもありがたいですね。

ここ数年間でかなりの医療費を支払ったという方は、もしかしたら医療費控除の対象になっていかもしれませんので、ぜひ領収書などをもとに計算してみてください。