手続きの複雑な限定承認をわかりやすく解説! メリットやデメリットは?




亡くなった故人の財産は、必ずしもプラスの財産だけではありません。中には借金などの負債が含まれていることもあるでしょう。

しかしそのような場合でも、故人の住居などの不動産を相続したいケースや、プラスの財産やマイナスの財産がどのくらいあるのか不明だけれど負債を負わない程度に相続したいというケースには、限定承認を利用することができます。

相続にはいくつかの方法がありますが、今回はこのうちの1つである限定承認について、そのメリット・デメリットや手続きの流れをわかりやすく簡単にご紹介します。

 

 

限定承認とは

「遺産」という言葉は「大きな富」というイメージを想起させるかもしれません。しかし、遺産にも「受け継いで嬉しい遺産」と「受け継ぎたくない遺産」があります。「受け継いで嬉しい遺産」には、私たちが通常想像するような、お金・住居をはじめとした不動産などが含まれます。その一方で、「受け継ぎたくない遺産」とは借金などの負債のことを指します。

つまり、「受け継いで嬉しい遺産」とは「プラスの遺産」であり、その反対に「受け継ぎたくない遺産」とは「マイナスの遺産」のことを意味するのです。日本では、このように個人の遺産はプラスの遺産であっても、マイナスの遺産であっても相続人が受け継ぐという仕組みが存在しています。

しかし、遺産の相続人はすべての遺産を引き継がなけばならないわけではありません。というのも相続には3種類の方法があり、そのうち自分の希望するどれかを選択することができるからです。そして、今回お話しする限定承認は、この3種類の方法のうちの1つに含まれているものです。

3種類の相続方法

遺産の相続が3種類あるということなので、限定承認について確認するついでに、それぞれの特徴を確認してみましょう。

その前に、これからこの記事で頻繁に現れる重要キーワードについておさえておきますね。

今回大切な言葉は、「被相続人」と「相続人」の2つです。定義はそれぞれ以下のようになります。

  •  「被相続人」:相続される故人
  • 「相続人」:故人の財産を相続する人

それぞれこのような違いがあるので、この記事を読んでいる途中で、意味が分からなくなってしまったら、ここに戻って改めて確認してみてくださいね。

さて、キーワードが確認できたので、本題に戻ります。

3種類の遺産相続についてです。遺産相続には「単純相続」と「限定承認」、「相続放棄」の3つがあり、それぞれの特徴は次のようになります。

  •  「単純承認」:相続人が被相続人のプラスの財産もマイナスの財産もまるごと相続する
  • 「限定承認」:相続人が被相続人のプラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続する
  • 「相続放棄」:相続人が被相続人のプラスの財産もマイナスの財産もまったく相続しない

これらの3つの選択肢が存在するのです。相続人は、相続が開始されてから3か月以内に3つのうちのどれかを選択する必要があります。

「単純承認」と「限定承認」とはすなわち、「すべて引く継ぐか」あるいは「一切引き継がないか」のどちらかなので、理解しやすいですね。しかし、本題の「限定承認」については、分かるような、分からないような、少し疑問の残る項目です。そのため、「限定承認」については、個別に取り上げて確認してみましょう。

相続放棄に関しては別の記事で説明されているので、こちらをご参照ください。

関連記事:相続放棄の基礎知識や手続き方法を必要書類を見ながら解説

 限定承認

限定承認では、プラスの財産もマイナスの財産もどちらも受け取りますが、条件付きで引き受けます。その条件とは、「プラスの財産で支払い切れる分のマイナス財産を引き受ける」というものです。この点が、単純承認と異なる点です。単純承認の場合には、プラスもマイナスもすべて引き受けるということでした。

このことから、単純承認はプラスの財産がマイナスの財産を上回っている時に、限定承認はプラスの財産がマイナスの財産を下回る時に選択するのが適切だと考えられます。

プラスの財産がマイナスの財産を下回っている時に、単純承認を選んで借金を負いたいという方は稀です。この場合には、やはり限定承認か相続放棄のどちらかを選択する方が多いでしょう。ただ、遺産がプラスの財産となるのかあるいはマイナスの財産となるのか分からない場合には限定承認を選択するのが適切です。

限定承認は、「自分とは無関係な被相続人の借金(=マイナスの財産)まで抱えたくはないが、すべての遺産を放棄してしまうのは申し訳ない。義理の気持ちがあるから、少なくとも、プラスの財産で支払える程度のマイナスの財産を引き受けよう」と考えた時のために存在するのです。

このように限定承認とは、義理人情の気持ちを表している相続方法だと言い表すこともできます。

 限定承認が適切である場合

限定承認を選ぶのが賢明なケースとはどのよう場合なのでしょうか。限定承認が適切なケースについて見て行きましょう。

 プラス、マイナスの財産がそれぞれいくらあるか不明な場合

相続を行う際には、マイナスの財産・プラスの財産がそれぞれどれくらい残されているのか分からない場合あります。

このような場合に単純承認を選ぶと、マイナスの財産が上回っている時に、相続人がマイナスの財産分の責任を負わなければならなくなります。その一方で、相続放棄を選んだ場合、プラスの財産が多い場合や住居が財産に含まれている場合には、本来プラスとして相続することのできる財産まで放棄してしまうことになるので、大きな損をしてしまいます。

そのため、被相続人が残した財産が不明である時には、限定承認を選択しておくのが無難です。

被相続人名義の自宅を残したい場合

限定承認には「先買権」という制度があり、この制度では家庭裁判所に選定してもらった鑑定人が評価した自宅の価格を支払うことができれば、自宅を確保することができます。

ここで鑑定してもらった価格の額をプラスの財産で賄うことができれば、他に借金などの負債があった場合にもその分は負わずに、自宅のみ引き受けることが可能です。

身内に負債を知られたくない場合、相続の面倒をかけたくない場合

被相続人の借金が多く、財産がほとんどない場合には相続放棄を行ないます。しかし、相続放棄を行なった場合は、放棄した相続権が次の相続人に移り、その方も相続放棄の手続きを行なわなければなりません。

このように、順繰りに相続権が移ってしまうと、身内中に被保険者が借金などの負債を抱えていたことが知れ渡ってしまったり、相続放棄の手続きの面倒をかけなければならなくなったりしてしまいます。このような状況を防ぐためにも、限定承認での相続が役に立つのです。

ただ借金ばかりでプラスの財産が無い場合には、費用がかかってしまうということに注意しましょう。この方法はどうしても、他の身内に借金のことを知られたくない場合に利用すると良いでしょう。

 メリット

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手続きが複雑で選択する人の少ない限定承認ですが、メリットも大きいのが限定承認です。場合によっては限定承認が最も適していることもあるので、あらかじめメリットについてもしっかりと把握しておきましょう。

プラスの範囲内でマイナスの財産を受け継ぐことができる

限定承認の場合、プラスの財産の範囲を超えない程度でマイナスの財産を受け継ぐことができます。そのため、単純承認のようにマイナスの分も全て引き受ける必要はなく、相続人自身が不利益を被るのを防ぐことができます。

 少人数で相続手続きを終わらせることができる

限定承認では相続人全員で申立てを行ないます。そのため、相続放棄のように1人の相続人が相続放棄をした後に、その相続のバトンが次の別の相続人に渡ってしまうということはありません。つまり、限定承認を行なえば、少人数で相続を終わらせることができるのです。これなら、被相続人の借金が山積していることをなるべく多くの身内に知らせずに済みます。

被相続人の自宅を相続できる

相続放棄を行なった場合、財産のうちに自宅が含まれていると、その相続権までも失ってしまいます。たとえマイナスの財産が多くても、自宅は相続したいものです。

このような場合には、限定承認を利用することで自宅などの特定の財産を引き受けることができます。限定承認では「先買券」という制度が利用でき、これを通して自宅の価格を支払い、自宅を確保することが可能です。このように、特定の財産を受け継ぎたいという場合には非常に便利な制度なのです。

 デメリット

場合によっては非常に良い選択となる限定承認ですが、その一方でデメリットも存在します。ここではどのようなデメリットがあるのか確認して行きます。デメリットをしっかりとおさえた上で限定承認を選ぶかどうか判断しましょう。

精算手続きがあり面倒

限定承認の申述書が家庭裁判所に受理された後には、プラスの相続財産をお金に換え、借金の支払いに充てる必要があります。これは相続財産の精算手続きと呼ばれるものです。

精算手続きは相続人が1人の場合と相続人が複数人の場合で精算が異なります。

相続人が1人である場合には精算手続きは5日以内に行い、「相続人が限定承認を行なったこと」、「貸主等が一定の期間内にその請求の申出を行なわなければならないこと」について、官報に掲載し公開します。これを「公告」と呼びます。ただ、知っている貸主がいる場合には、個別に請求の申出を行うように促す必要があります。このことを催告と呼びます。

その一方で、相続人が複数人である場合には限定承認の申述書が家庭裁判所に受理されると同時に、相続人の代表者である「相続財産管理人」を選出します。代表者が選ばれた後には、10日以内に公告の手続き(「限定承認が行なわれたこと」、そして「貸主が一定期間に請求の申出を行う必要があること」を世間に公開する)、知っている貸主等への催告を行う必要があります。

 所得税の負担がかかる

収入金額の計算上の特例として、時価による資産の譲渡がある場合には、みなし譲渡所得課税が課されます。限定承認においては、被相続人が相続人から現金以外の財産を受け取り、利益があった場合には、みなし譲渡所得課税が課されることになります。

被相続人が生前にそれを購入した時よりも土地や宝石などが高騰し、利益が出る場合に限定承認を行うと、被相続人には所得税がかかるということなのです。そのため、相続人は被相続人の所得税について準確定申告をもって所得税の申告・納付をする必要があります。

相続人全員で行う必要がある

限定承認は、相続人全員が揃って行う必要があります。そのため、相続方法として限定承認を選ぶためには相続人全員の承諾を得なければなりません。1人でも限定承認を希望しない方がいる場合は選択することができないのです。

申し立て・手続き方法は

限定承認の手続きは非常に複雑であるという点が特徴的です。このことが理由でほとんど利用されないのです。しかし、先ほどもご紹介したように面倒な手続きを踏んででも限定承認を選択した方が良いケースもあります。そのような場合に遭遇したときのために、ここでひとまず限定承認の手続きの流れを確認して行きましょう。

11のステップ

限定承認には12のステップが存在します。それぞれの説明はさておき、一通り挙げてみると次のようになります。

  1. 相続・負債の調査
  2. 限定承認の熟慮期間の延長
  3. 相続人全員に連絡
  4. 申述書と相続財産目録の作成
  5. 限定承認の申述
  6. 限定承認申述受理の審判
  7. 相続財産管理人の選任
  8. 債権申出の公告・催告
  9. 鑑定人選任の申立て
  10. 請求申出を行なった相続債権者・受遺者への弁済
  11. 残余財産の処理等

これほどの手順を踏まなければならない上に、専門的な用語がぎっしり詰まっているので、限定承認の手続きを避けたくなる方も多いのが分かります。ただ、1つずつ確認しないまま限定承認を諦めてしまうのはもったいないことです。特に限定承認を利用するのがべストな場合には、しっかりと各続きを確認する必要があります。次はこの12のステップの1つ1つの内容を確認して行きましょう。

限定承認の手続きの詳細

限定承認を選択する可能性のある方は、必ず手続きのステップを確認しておき、実際に限定承認を行う時にスムーズに進められるようにしましょう。ここでは先ほどご紹介した手順を1つずつご紹介します。

相続・負債の調査

最初にご紹介した「単純承認」「相続放棄」「限定承認」のうち、相続方法をどの方法にするか決める際には、まず被相続人が残した財産にどのようなものがあるか調べる必要があります。

この調査では、プラスの財産(つまり資産)だけでなく、マイナスの財産(つまり負債)が無いかどうかということを調査します。この調査は相続を行う際、非常に重要なものとなります。

負債の調査を怠ってしまい、資産のみを財産として考えてしまうと単純承認が成立し、後から大きな負債が見つかったとしても相続放棄・限定承認に切り替えることはできません。

相続財産や負債の調査の方法としては、遺品や被相続人宛てに送られてくる郵便物などからその資産と負債を調べることが挙げられます。資産には現金や貯金、各種の動産、不動産のみならず、債券や株式なども含まれます。

限定承認の熟慮期間の延長

相続の方法を選ぶ期限は被相続人が亡くなったことを知ってから、3か月以内に行なわなければなりません。この3カ月を「熟慮期間」と呼びます。3か月の熟慮期間中に相続の方法を決定しないと、単純承認が成立し、プラスの財産もマイナスの財産も相続しなければならないことになります。つまり、相続放棄や限定承認を選ぶことができなくなってしまうのです。

ただ、熟慮期間中に資産や負債の調査を終えることができない場合もあるでしょう。その場合には熟慮期間を延長することが可能です。熟慮期間を延長するためには被相続人が最後に住んでいた地域を管轄する家庭裁判所に申し立てを行ないます。

ただしこのように、熟慮期間を延長することはできるものの、すべての場合において延長が認められるわけではない点に注意しておきましょう。やはり、できる限り3か月以内に限定承認の決定を行うことが望ましいといえます。

相続人全員に連絡

限定承認の選択を決定するためには、他の相続人全員が限定承認を選択することに賛同する必要があります。というのも、限定承認に決定するためには共同相続人全員で申述を行う必要があるためです。誰か1人でも、単純承認や相続放棄を選びたいという方がいると限定承認を選ぶことはできません。

したがって、限定承認を行う際には自分以外の全ての相続人が誰であるのか明らかにし、迅速に連絡を取って限定承認に決定できるよう、意見を一致させるように取り計らう必要があります。

申述書と相続財産目録の作成

限定承認では、「限定承認の申述書」という書類を家庭裁判所に提出する必要があります。申述書には、戸籍謄本、財産・負債に関する資料、被相続人の除籍謄本などの書類を添付する必要があります。提出先の家庭裁判所は、被相続人が最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所となります。限定承認の申述書と同時に、相続財産目録を作成し、提出する必要もあります。

必要な書類は以下の通りです。

  1. 相続限定承認申述書
  2. 被相続人の除籍・原戸籍謄本、住民票除票
  3. 相続人全員の戸籍謄本・住民票
  4. 財産目録

限定承認の申述

申述書・相続財産目録の提出準備が整ったら、これらを家庭裁判所に提出し、申述を行ないます。自分の他にも共同の相続人がいるのであれば、全員の名義で申述を行う必要があります。

限定承認申述受理の審判

限定承認の申述書を提出し終えたら、家庭裁判所から照会書が送られます。また、申述書の内容に不明な点がある場合には、さらに資料の提出が求められることもあります。

この照会に回答した後には、限定承認の申述が受理されるかどうかについて議論され、受理するということになった場合には、申述の受理が決定され、裁判所から通知書が送られてきます。

相続財産管理人の選任

限定承認の申述が受理されたら、相続財産の精算手続きを行う必要があります。その際に、相続人が1人しかいない場合には自分で手続きを進めますが、複数人の相続人がいる場合には、申述書が家庭裁判所に受理されると同時に相続財産管理人が選出されます。あらかじめ相続財産管理人となる人を相続人同士で決めている場合には、申述の段階で「相続財産管理人はこの人に決めている」という旨の上申書を出します。

債権申出の公告・催告

限定承認の申述が家庭裁判所で受理された後には1人の限定承認者あるいは相続財産管理人が精算手続きを行ないます。限定承認者が1人である場合には、受理審判の後5日以内に「限定承認をしたこと」と「一定の期間内にその請求を申出なければならないこと」を公告します。公告とは「世の中に周知してもらうこと」と意味し、官報を通して行います。一方で相続財産管理人の場合には10日以内に同じ手続きを済ませます。

鑑定人選任の申立て

相続財産は競売し、換価していくことが原則となっています。しかし、限定承認の相続人には相続財産の優先権である先買権があります。先買権は家などを相続したい時に利用することができます。まずは、家庭裁判所に対し、鑑定人選任申立てを行ない、選ばれた鑑定人に家の価格を評価してもらいます。ここで鑑定してもらった金額を相続人が支払うことができれば、家を相続することができます。

配当弁済手続き

公告期間を過ぎたら、相続財産管理人は債権者にそれぞれの債権額に応じた配当を行ないます。

債権者のうちでも、利息制限法を超過する利息で貸付を行なう債権者には、利息制限法による引き直し計算をし、残債が残ればそれを基準として配当します。過払金が発生しているのであれば、過払金の返還を受けます。

残余財産の処理等

債権届期間に申し出ず、かつ相続人の知らない債権者が存在した場合、これらの債権者は残った残余財産に関してのみ弁済を受け取る権利を持ちます。財産を弁済してもなお財産が余る場合には、相続人の間で遺産を分割することになります。

注意点は

限定承認の手続きで注意すべき点はどのような点でしょうか。限定承認を選ぶ前に注意点をしっかりとおさえ、トラブルを回避できるようにしておきましょう。

限定承認の手続きは3か月以内

限定承認の手続きでは、被相続人が亡くなり、自分が相続人となったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所で申立てを行う必要があります。この3か月のうちに何も手続きを行なわないと、単純承認を選んだと見なされてしまいます。

しかし、遺産の調査に時間を要し、3か月以内にその調査の結果を出すことができない場合には、家庭裁判所に申立てを行ない期間を延長することができます。

相続人が複数人いる場合には、被相続人が亡くなった事実を知るのにタイムラグがある場合もあるでしょう。たとえば、相続人のうち1人が旅行中で、帰宅してから被相続人が亡くなったことを知ったという場合です。そのようなケースにおいては、最後の方を基準に3か月を数えます。

手続きが完了する前に財産を処分しない

限定承認では、手続きが完了する前に財産を処分してしまうと、単純承認を選んだと見なされてしまいます。そのため、全ての手続きが完全に完了するまでには遺産を片付けることができません。手続きが終わらないうちは遺産を片付けないように十分注意しましょう。

最後に

引用元:photoAC

今回は限定承認についてご紹介しました。手続きがややこしいためにほとんど利用されていない相続方法ですが、場合によっては非常に役立つものです。3つの相続方法(単純承認・限定承認・相続放棄)をしっかりと確認し、自分の場合にはどれが一番合っている相続方法なのか見極めましょう。限定承認を選択する場合には、もう一度、今回ご紹介した手続きの流れを確認して、段取りをきちんと確認しましょう。