ただ書くだけじゃダメ!?借用書の種類と法的に効力のある書き方

金融機関や消費者金融などでお金を借りる時はもちろん、友人・知人などの個人にお金を借りる時に書く事もある借用書ですが、借用書というのは遺言書などと同じように書き方や注意点があることをご存知でしょうか。

また、借用書には種類がある事をご存知ない方が意外と多いようですので、今回は借用書の種類、法的に効力のある借用書の書き方など、借用書に関するいろいろなお話しをしたいと思います。

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借用書の種類

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皆さんは「借用書とは何か」と聞かれたら何と答えるでしょうか。おそらく「お金を借りる時に書くもの」といった回答をされる方がほとんどだと思います。そして、その答えでもちろん正解なのですが、実は一口に「借用書」といっても用途によって種類があります。

金銭消費貸借契約書

皆さんが「借用書」と聞いてイメージすると思われるもので、金融機関や消費者金融、また個人間でお金を貸し借りする時に書くものが「金銭消費貸借契約書」になります。一般的に「借用書」と言われるのがこれですね。

そもそも、「金銭消費貸借契約」というのは、返済を前提としてお金を借りる契約のことで、借りた金額と同額のお金を返還するという契約に対して作成するものが「金銭消費貸借契約書」なのです。

金銭消費貸借兼抵当権設定契約書

上記の金銭消費貸借契約書に「抵当権」を加えたものが「金銭消費貸借兼抵当権設定契約書」です。もしお金を貸した人が返済できなくなった場合に備えて、あらかじめ不動産を抵当に差し入れておくという契約をする際に作成します。

抵当権というのは、債務の履行が行われなかった場合に、債権者が他の債務者よりも優先的に債務の弁済を受けられる権利のことで、債務が正常に履行されている限りは債務者がその不動産を使い続けることが出来るというものですが、もしも債務の不履行があった場合は不動産は没収となります。

債務承認弁済契約書

「債務承認弁済契約書」を簡単に言うと、新たな弁済方法を記載した契約書という事になります。つまり、債権者に対して弁済しなければならない債務があることを認める旨の記載と、その債務の弁済方法などを定めた契約書の事です。

すでに存在している債務の事実を債務者自身が承認、その返済を約束する旨を書面で作成するもので、例えば友人・知人、身内などの個人間でお金を貸し借りした際に借用書を作らなかったとします。しかし、返済が滞り出して全額回収できるかどうか不安になってきました。

そんな時は「借用書を作っておくべきだった」と思うと思いますが、そんな時に作成できるのも「債務承認弁済契約書」なのです。いくら借りていて返済残はいくらあるのか、どのようにして返済するのかなどの債務を具体的に特定するものです。

金銭準消費貸借契約書

商品代金の未払による債務を含む金銭やその他の支払義務について、債務者がお金を借りたことにして返済を約束する契約書になります。

それをする事によって、複数の取引や債務がある場合の複雑化を避けることができ、これらを一本にまとめて整理(債務の一本化)するという目的で作成します。準消費貸借契約書を作成すると元々あった複数の債務は消滅し、新たに「貸金債務」が生じることになります。

借用書の有効と無効

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借用書には種類がある事がわかりましたね。金融機関や消費者金融などでお金を借りる場合は必ず借用書が必要となりますが、個人間で貸し借りする場合は親密な関係であればあるほど「借用書なんて要らない」と、口約束だけになってしまうケースが多いようです。

しかし、そんな親密な関係だからこそ借用書を作成しないと後々もめたりして関係が壊れてしまうなんて事にもなり兼ねないのです。小さな金額であればともかく、2桁以上の金額を貸し借りする場合はぜひ借用書を作成しましょう。「借りた覚えは無い」と言われれば泣き寝入りになってしまいます。

無効となる借用書

実は借用書には書き方や用紙などに「コレでなくてはならない」といった明確なフォーマットなどはありません。しかし、基本的な書き方はありますし、有効になるものとならないものがありますので、まずは借用書として認められない(無効とされても仕方ない)ものを見てみましょう。

①.全てがワープロやパソコン作成のもの

作成日や氏名その他が全てワープロやパソコンで作成されている借用書はいくらでも偽造できてしまいます。全てが印字で印鑑が押されていたとしても、印鑑だって誰にでもどこででも購入できるため、何かあって揉めたりした場合に「無効」と判断される可能性大です。

②.非常識な(感情的な)内容の記載

「もしも返済ができなくなったら家を売ってでも返します」とか、「どんな事をしてでも(強盗をしてでも)返します」、「自殺して生命保険金で返します」などの公的秩序に反する内容の記載はアウトです。

③.行為制限能力者との借用書

行為制限能力者というのは、単独では完全な法律行為を行うことのできない未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人などのことです。これらの人と交わした借用書は無効となります。

④.収入印紙が無いもの

借用書には、金額によって収入印紙が必要になる場合があります。10,000円未満の場合は収入印紙を貼る必要がない(非課税)のですが、それ以上になると、金額に応じた収入印紙が必要になります。

【金額による収入印紙の額面】

金額必要な収入印紙
1円~9,999円不要
10,000~100,000200円
100,001~500,000400円
500,001~1,000,0001,000円
1,000,001~5,000,0002,000円
5,000,001~10,000,00010,000円
10,000,001~50,000,00020,000円
50,000,001~100,000,00060,000円
100,000,001~500,000,000100,000円

借用書に収入印紙を貼った場合は、必ず「割り印」をします。借用書と収入印紙の両方にかかるように印鑑を押すことで、その収入印紙が使用済みであることを示し、再び使用できないように(悪用されないために)する目的があります。

また、インターネットなどからダウンロードできる借用書の場合は、あらかじめ借用書の表面に点線で囲んだ枠を作り、印紙を貼る位置が指定されているものもありますが、収入印紙を貼る位置は決まっていませんので借用書の表面であればどこでも構いません。

有効となる借用書

①.最低限必要な情報が全て記載されているもの

作成日、署名(手書き)、金額、返済期限や回数などがきちんと記載されていて、貸す側・借りる側がお互いに内容を承認した証として手書きの署名がされていることが最低限必要です。

実は印鑑も必ず必要とされてはいないようですが一般的には押印します。もしも印鑑が無いときは拇印(ぼいん)でも大丈夫ですが、朱肉が多すぎて指紋が潰れていると意味がなくなりますので注意が必要です。また、当たり前ですがシャチハタは不可です。

②.公正役場で作成された借用書

公証役場で公証人と呼ばれる人が証人となって作成してくれる公正証書を作成しておくことで、「借りた覚えは無い」などという事は通用しなくなります。

お金の貸し借りをする際には「金銭消費貸借契約公正証書」と呼ばれる公正証書を作成するのですが、作成するためには貸す側と借りる側が揃って公証役場へ行く必要があります。

借用書の基本的な書き方

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金融機関や消費者金融などでお金を借りる時は別として、個人間でお金を貸し借りする場合の借用書には正式な用紙などが無いというお話しをしましたが、前述のように基本的な書き方は存在します。

また、間違った書き方をすれば効力もなくなってしまいますので、ここからは法的にも効力のある一般的な借用書の書き方を見てみたいと思います。

用紙の準備

借用書は全て手書きでももちろん良いのですが、ある程度の内容はワープロやパソコンでの印字でも大丈夫ですし、インターネット上でもテンプレートなどが公開されていて、無料でダウンロードできるものがたくさんあります。

参考サイト:ビズオーシャン 各種テンプレート

上記のようなサイトからダウンロードするのももちろん良いのですが、決まった用紙を準備する必要はありませんしコピー用紙のような白紙に全て手書きしても良いので、何を記載する必要があるのかだけは覚えておいてください。

最もシンプルな借用書

 

実際にサイトからダウンロードしてみた借用書が上の画像です。一番上に書類名「借用書」、左下に債権者名(〇〇殿)を記載し、その下に「次の金額を借り受けました」として、借りた金額を記入するようになっています。以下は次の通りです。

1.上記借金につき、平成〇年〇月〇日に限り、一括返済します。

返済の方法についての記載です。分割払いで返済するのか、一括返済なのか、そして返済は振り込みなのか現金かなどの支払い経路を書きます。※ダウンロードしたものには支払い経路の記載はないようですが、そこまできちんと記載する方が良いです。

【書き方の例】
①.「〇年〇月〇日までに振り込みにて一括返済いたします」
②.「元金に利息を付したものを、〇年〇月〇日より毎月末に元金均等払いにて振込み返済いたします」
③.「〇年〇月〇日より、毎月末に〇万円ずつ現金で持参し返済いたします」など

※個人間でお金を貸し借りする場合、借りる人と貸す人の双方の合意があれば返済期限を書かないこともありますが、借用書としては期限の記載がなくても有効です。

2.利息は年〇%とし、毎月〇日限り、その月分を支払います。

金額が極端に低い場合や、お金を貸す相手が身内やごく親しい友人などでない限り、お金の貸し借りには利息をつけて返済する場合がほとんどです。しかし、いくら親しくても大きな金額を借りるとなると利息を付けて返済する方が多いようです。

当人同士の話し合いで利息をつける合意があった場合で、肝心な利率を決めていなかったというのであれば、法定利率の5%が適用となりますが、通常の法定利率は以下の通りです。

  • 元本が10万円未満の場合…年20%
  • 元金が10万円の以上100万円未満の場合…年18%
  • 元金が100万円以上の場合…年15%

【書き方の例】
①.「年利〇〇%とし、元金返済時に合わせて支払います」
②.「年利〇〇%とし、借入金に利息を付したものを元金均等払いにて支払います」

3.遅延損害金は年〇%とします。

もし返済が滞ったりした場合などには遅延損害金を設定する事ができます。利息制限法に基づいて、上限利率である1.46倍までの間で決める事になり、返済期限までに返済されず遅延した場合には実際の返済まで日割りで下記の利息を支払う事になります。

  • 元本が10万円未満の場合は年20%の利息×1.46=29.2%
  • 元金が10万円の以上100万円未満の場合年18%の利息×1.46=26.28%
  • 元金が100万円以上の場合年15%の利息×1.46=21.9%

4.利息の支払いを怠った時、又は民事再生もしくは破産手続申し立てがあった時は直ちに残金を一括で支払います。

上記の金銭消費貸借契約を証するため、本契約書2通を作成し、各当事者署名押印のうえ、 各1通を保持する。

作成した年月日、貸主の住所・氏名と印鑑、借主の住所・氏名と印鑑となります。

作成日は西暦でも和暦でも構いません。金額についても漢数字・アラビア数字どちらでも構わないのですが、アラビア数字だと「7を1に」、「1を4に」などと、改ざんされる可能性がありますので、漢数字を使うことをお勧めします。

漢数字は「壱弐参四五六七八九拾百千万」で、金額の前に「金」、最後には「円」と書きます。金額の書き方例として、「150万円」なら「金壱百五拾万円」、「180万円」なら「金壱百八拾萬円」というようになります。

返済期限や返済方法などのない、もっと単純な借用書を公開しているサイトもありますが、最低限必要な項目だけは必ず記載されているものを作成するようにしましょう。

借用書に関するトラブル

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借用書を作成するにあたっての詳細が分かったところで、借用書にまつわる様々なトラブルを見てみたいと思います。借用書を作成していなかったために起きたトラブル、作成していても内容が不十分だったために起きたトラブルなどをいくつかご覧ください。

借用書を作成しなかったケース

先ほども触れましたが、お金を貸す相手が親しい人だったり身内だったりした場合は、ついつい「借用書なんていいよ」と言ってしまいがちです。

  • 親兄弟が困窮してしまったため借用書なしでまとまったお金を貸したが借用書がないだけでなく、いつ、どのように、いくらづつ返済してもらうのかなど何一つ決めなかったため、返済を迫っても「まだ返済ができない」などと言われるばかり。

このケースは他人事ではなく、いつ誰に起きてもおかしくはないトラブルと言えます。家族だとしても、ある程度まとまった金額を貸し借りするのであれば簡単で良いので借用書を交わすようにしないと、最悪の場合はどんどん事がこじれてしまう事にもなり兼ねないのです。

  • 学生時代からの親友が困っていたので、頼まれたわけではなかったが自らまとまった金額を貸してあげた(もちろん借用書なし)。しかし、その後その親友との連絡が取れなくなってしまい、貸したお金の回収もできず借用書も無いため泣き寝入りとなってしまった。

この場合は、「お金を貸して欲しい」と頼まれた訳ではなく、親友が困っている姿を見て親切心から「いつでもいいよ」という思いで自主的に貸したというケースです。

「困った時はお互い様」という言葉がありますが、「親しき中にも礼儀あり」という言葉もあります。親友であるならば尚のこと借用書は取り交わすべきでした。

このように、身内や友人というと疑うことなく借用書なしでお金を貸してしまう事が少なくありません。こうなってしまうと、それまで培ってきた関係は壊れてしまいますし、何よりもとても悲しい思いをする事になってしまいます。

借用書を作成していたケース

そもそも借用書を作成していなかった上記のケースは自業自得と言われればそれまでですが、問題なのは借用書をきちんと作成していてもトラブルは起きるという事です。

  • 友人が起業する際に少し足りないという相談を受けたので、きちんと借用書を作成したうえでお金を貸すことにしましたが、単に「〇〇円お借りしました」という内容で返済についての詳細は記載しておらず「できるだけ早く返す」という口約束だった。

せっかく借用書を作成していても、返済期限や支払方法などもきちんと決めていない(記載していない)場合は、「待って欲しい」と言われても何も言えないばかりか遅延損害金も取れなくなります。

  • 会社の同僚が困っていて仕事にも支障が出てきたため、きちんとした内容の借用書を作成したうえでお金を貸すことに。しかし返済期限になってもお金を返してもらえず借用書も紛失してしまった。

こちらはお金を貸した側が借用書を失くしてしまった事で、お金を貸したという「証拠」が無くなってしまったのです。もしも相手がそれを知って「借りてない」と言い出したら請求も出来なくなってしまいます。

口約束でも契約は成立

ここまで借用書の有無でどんなに違うのか、借用書があっても内容によっては効力がない、など色々とお話ししましたが、実は口頭で「〇〇日までに返す」などという約束をしてお金の貸し借りをした場合も契約としては成立します。ただし、下記のような場合に困る事になります。

  • 約束した期日になっても返済がなく、督促しても「覚えていない」、「まだ先のはず」などと言われてしまった。
  • 数回にわたって貸した場合などに、実際に貸している金額を相手が把握しておらず「これで終わりのはず」と言い切られてしまった。
  • 信頼していたため借用書を作成しなかったが、いつまでも返済がないので訪ねてみると引っ越ししていて所在不明になっていた。
  • 交際していた相手に貸していたが、自身の浮気が原因で別れる事になったため督促したところ、「浮気の慰謝料だ」と言われて回収できなかった。
  • 借用書が無いばっかりに、返済を迫った際「いつ借りた?」、「いくら借りた?」、分割返済の場合「いくら返した?残金は?」などと聞かれても記憶が曖昧できちんと答えることが出来なかった。

などなど、口約束でも契約としては成立しますが返済されなかった場合には必ず後悔することになるのです。

借用書の強制力

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ここからは借用書の効力(強制力)について見てみましょう。借用書さえ作成していれば何が起きても安心して構えていられるのでしょうか。

借用書があれば督促しても返済してくれない人に何かしらの法的手段を執ることができるものなのでしょうか?借用書は一体どこまで強制力があるのかをお話しします。

ただの証拠

きちんとした借用書を作成していて、貸した相手が「もう少し待って欲しい」と言ったまま全く連絡が取れなくなったり、「期限を延ばしてくれないか」などと言って、のらりくらりと返済を先延ばしにされた場合は作成した借用書をもって法的手段に出れば解決するのでしょうか。

これは半分正解で半分不正解です。例えば、貸した相手が「借りた覚えはない」とか「お金が無い」などと言って返済しないとします。そこで借用書を持って相手の家族や親族などに取立できるかというと出来ません。

では、この借用書をしかるべきところに持って行って差し押さえなどを依頼すれば、お給料や貯蓄などの差し押さえを強制執行してもらえる?これもNOです。

借用書というのは、あくまでも「お金を貸しました(借りました)」という証拠でしかありません。強制的にお金を回収できるような強制力は無いのです。裁判を起こして初めて強制的な措置が執られるのであって、借用書そのものだけでは何もできないのです。

しかも、裁判を起こしたところで100%勝てるという保証はありませんし、もしも裁判中に相手が自己破産でもしようものなら回収はできなくなってしまいます。

また、万が一返済できなくなった際の手段として、前述のような公的秩序に反する内容や非常識な内容だっりすると、返済されず裁判になった際、「脅されて書いた」などと言われてしまってせっかくの証拠である借用書が原因で立場が逆転してしまうなどという事も皆無ではありませんので要注意です。

完璧な借用書の作成

どんなに信頼している相手でも、金額が大きい場合は特に万が一の事を考えて完璧な借用書を作成しておきたいですね。そこで前述でもお話しした「公正証書」として作成する借用書がお勧めなのです。

公正証書の作成にはお金も手間もかかりますが絶対的な強制力がありますし、何しろ相手に与えるプレッシャーが非常に大きいので、相手には「信頼しているからこそ関係を壊さないために作成しましょう」などと言って納得してもらいましょう。

いろいろと提出する必要書類などもありますし、日時を決めて相手と一緒に公証役場へ行くという面倒くささ等もありますが、多少の費用や手間を惜しんだがために後々後悔するよりは良いと思います。費用に関してはお金を貸す相手と折半にする方もいらっしゃいます。

まとめ

いかがだったでしょうか。お話ししたように借用書そのものに強制力はありませんが、もしもの時に借用書があれば最終手段として裁判を起こす際の証拠として役立つのです。

他人事ではありませんので、気軽にしてしまいがちなお金の貸し借りですが、ある程度まとまった金額であれば必ず借用書を作成するという事を覚えておいてください。