平成29年1月31日、日本学生支援機構法改正案が閣議で決定されました。
給付型奨学金、貸与より基準厳しく 創設へ改正法案決定
参照元:日本経済新聞 2017/1/31
改正の内容は、国の奨学金を運営する独立行政法人・日本学生支援機構(JASSO)に基金を設け「給付型奨学金」を創設するというものです。
奨学金をめぐる新しい動きについて解説します。
引用:photoAC
目次
奨学金の現状
国内での進学に対しては「貸与型」に限られていたJASSOの奨学金に、新たに「給付型」が加わることになります。給付奨学金の最も大きな特徴は、返還の義務がないということです。
奨学金の延滞状況
1943(昭和18)年度から2015(27)年度までの73年間にJASSO(旧日本育英会等も含む)が貸与してきた奨学金の総額はおよそ17兆円、貸与人数は1,203万人にのぼります。
日本の高等教育を支えてきたJASSOの奨学金の原資は、過去に貸与した奨学金の返還金と国民の税金ですが、実は、返還の期日が来ても返還されない「延滞」の額が880億円もあるのです。(平成28年11月現在)
参照元:JASSO
延滞の理由
奨学金延滞の理由は
- 学校卒業後に正規社員になることが難しい
- 賃金上昇率が上昇しないのに社会保障負担は増加し、可処分所得は減少している
など、経済的に返還の余裕がないことがあります。
また、日本育英会時代には返還の督促も緩やかであったために、
奨学金はもらえるもの
との誤解が広がっていたことも考えられます。
現在では、債権回収業者によって勤務先まで督促の電話が行くなど、返還義務は周知されるようになりました。
JASSOの奨学金は、「奨学金という名の教育ローン」と評されることもあります。
給付型奨学金の概要
大学や企業が設けている奨学金事業の中には、返還の義務がない給付型奨学金がありますが、給付条件をクリアするのはなかなか大変です。
優秀な学生が経済的な理由で進学をあきらめることのないよう、国が運営する「給付型奨学金」の創設が求められていましたが、この度ようやく実施されることが決まりました。どのような内容なのでしょうか?
支給対象
給付型奨学金の支給対象は以下の通りです。
対象学校の種類
- 大学、短期大学、高等専門学校、専門学校
家計基準
- 住民税非課税世帯の進学者
学力・資質基準
- 十分に満足できる高い学習成績を収めている者
- 教科以外の学校活動等で大変優れた成果を収め、教科の学 習で概ね満足できる学習成績を収めている者
のいずれかの基準を満たす学生を、成績や課外活動などから高校がガイドラインに従って評価し、推薦することになります。具体的には
- 進学の意欲・目的等に関するレポート等を評価
- 高校生活全体の中で課題克服の経験などにも着目
- 社会的養護を必要とする学生等への配慮
などです。
給付金額
給付金額は、
- 国公立に通う自宅生は2万円
- 国公立の下宿生と私立の自宅生は3万円
- 私立の下宿生は4万円
ただし、国立大学は授業料減免制度を踏まえて給付額が調整されます。また、社会的養護を必要とする学生には入学金相当額を入学時に追加で給付されます。
給付方法
毎年度学業の状況等を確認することを前提とした上で給付 されます。
給付開始時期
本格的な実施は2018(平成30)年度からですが、
- 下宿先から私立に通う学生
- 児童養護施設出身者
に対しては、2017(平成29)年度から先行して支給されることになります。先行実施される私立の下宿生ら約2800人が対象です。国はJASSOの基金に70億円の予算を計上しています。
今後に向けて
今回の改正案には、
- JASSOの奨学金制度に関する周知を図る「スカラシップアドバイザー事業(仮称)」
- 学生の地方定着促進のために各自治体が行う返還支援制度の充実
- 各大学・民間団体が行う給付型奨学金の充実
- 卒業生のネットワーク化による寄付等社会還元の促進
なども盛り込まれました。
まとめ
国が運営する奨学金制度は長い「貸与」の歴史を持っていますが、制度が複雑なため利用者に誤解を与えてきた事実も否めません。
今後は
- 教育の機会均等
- 次の世代への橋渡し
というJASSO本来の理念を国民全体で共有できるような仕組み作りが急がれています。
また、対象者の経済環境に即した給付型奨学金への展開も期待したいところです。
例えば大学独自の給付型奨学金には、早稲田大学の
- 入学時納入金から春学期分授業料を免除(めざせ!都の西北奨学金)
- 入学検定料等免除、授業料、実験実習料等、その他諸経費を全額免除した上で月額9万円を給付(紺碧の空奨学金)
などが参考になるでしょう。
参照元:早稲田大学奨学課
ゆくゆくは大学までの教育費無償化をという議論もありますが、国・大学ともに奨学金の充実を図ることが直近の課題になるのではないでしょうか。