公正証書遺言の作成に必要な書類と費用や自筆証書遺言との違いについて

人はこの世に生まれて人生の幕を閉じるまでの間に様々なライフイベントを経験し、生涯を終えるライフエンディングを迎えます。このライフエンディングに向けた終活(人生の終わりを考えて生前にいろいろと準備すること)をする方が増えていることをご存知でしょうか?

今回は、その終活の1つでもある「公正証書遺言」の作り方や必要書類と費用、自筆証書遺言との違いについてお話ししたいと思います。予め知っておく事で、いざという時に慌てたり後悔しなくて済むことがたくさんありますよ。

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遺言書とは

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公正証書遺言のお話しをする前に、まずは遺言書そのものを理解しなければなりません。遺言書という言葉は皆さんご存知だと思いますが、具体的なことについては意外と知らない方が多いようです。

正しい遺言書

「遺言書って何?」と聞かれたら、おそらくほとんどの方が「自分が亡くなった後に財産を残す人を書いておくもの」と答えると思います。もちろんその通りです。

家、土地、預貯金など、全ての資産を誰にどのような形でどう分配したいのかという意思を明確に書き記しておくものが遺言書ですね。でも、ただそれらを書き綴っておけば良いという訳ではありません。メモ書きのやうなものや箇条書きの簡単なものはNGです。

法律で認められるような書き方というものがきちんとありますので、これに従った書き方になっていないと遺言書として成立しないため、いざ自分が亡くなった後で遺族が揉める原因となることもあります。

遺言書の種類

遺言書と一口に言っても3通りの種類があります。

  1. 自筆証書遺言
  2. 秘密証書遺言
  3. 公正証書遺言

1.自筆証書遺言はお察しの通り、自分の字で手書き作成する遺言書です。遺言書と聞いて真っ先に思いつくのがこの自筆証書遺言ではないでしょうか。これには前述のように書き方のルールがありますし、裁判所からの検認を受けて正式な遺言書だと認めてもらう必要があります。

2.秘密証書遺言というのは文字からも推測できると思いますが、遺言書の存在を絶対に誰にも知られたくないという場合に作成する遺言書です。もちろん、こちらもきちんとした書き方のルールがあります。

誰にも知られないように秘密で作成するのですが、証人になってもらう人を2人以上準備する必要があります。誰にも知られたくないのに?という疑問もありますが、多くの場合は弁護士さんや司法書士さんなどにお願いするのが一般的です。

そして、公証役場というところで作成から封をするまでの一連の流れを秘密裏に行うのが秘密証書遺言なのです。ですから実際の相続対象者や親戚縁者などには知られずに作成できるという事です。

3.が今回のテーマとしている「公正証書遺言」です。上記2つの遺言書に関してはさらりと概要が理解できたと思いますので、ここから公正証書遺言について詳しくお話ししていきたいと思います。

公正証書遺言とは

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公正証書遺言は、上記2つの遺言書と同じく法律で定められた書き方である必要があり、公証役場というところで作成する必要がある遺言書のことを言います。

公証役場って何?

ここまで何度か出てきた公証役場についても知っておく必要がありますね。本題に入る前に公証役場について触れておきたいと思います。

遺言書に限らず、私文書や会社規約、契約書類などを作成する場所です。様々な公正証書を公証役場で公証人の立会いのもと作成することで、中立的な文書の作成が可能なのため後々の争い事も防止できるうえ、無料でどなたでも利用できます。

公証人とは

公証役場にいる人で、法務大臣から任命を受けている方々です。その公証人になっている方のほとんどは法務省のOBで元裁判官や検察官だったりしますので、プロ中のプロ(しかもベテラン)が相談に乗ってくれたり文書作成をしてくれるという事になります。

公証人は公正証書遺言の作成だけでなく様々な公正証書の作成なども行っています。その公証人の組織として「日本公証人連合会」というものが存在します。ご存知ない方はぜひ下記ホームページをご覧になってみてください。

参考サイト:日本公証人連合会

どこにあるの?

公証役場は日本全国(各都道府県)にあります。多くの場合、その所在地は公共交通機関を利用して行ける駅近くだったりします。お住まいの地域の公証役場はインターネットで検索できますので下記サイトを参照してください。

参考サイト:日本公証人連合会 公証役場一覧

公正証書遺言

それでは本題「公正証書遺言」のお話しに戻りたいと思います。繰り返しになりますが、自筆証書遺言は自筆で自身が書きしたためるもの、公正証書遺言は公証役場で作成するものでしたね。秘密証書遺言も公証役場で作成するのですが、秘密裏で作成する必要がない場合は「公正証書遺言」となります。

公正証書遺言と自筆証書遺言の違い

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では、「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の違いをメリット・デメリット形式で更に詳しく見ていきたいと思います。どちらで作成するのが良いのかはご自身の判断となりますが、それぞれのメリットとデメリットを知っていれば自分に合っているのがどちらなのかの判断材料になります。

自筆証書遺言のメリット

  • 自分が書きたいと思った時に自分の都合だけで作成できる
  • 費用がかからない
  • 誰にも知られることなく作成・保管できる
  • ルールを知っていれば誰でも簡単に作成できる

自筆証書遺言のデメリット

  • 高齢者や文字を書くことが困難な方には作成出来ない
  • 自分1人で作成して隠しておくと見つけてもらえない可能性がある
  • 作成している事が相続対象者にバレて内容書き換えなどの脅迫に遭う可能性もある
  • 日付1つ忘れただけで効力がなくなる
  • 発生された後に裁判所で正式な遺言書と認めてもらうまでの時間がかかる
  • 誰かに内容を改ざんされてしまう恐れがある

公正証書遺言のメリット

  • 公証人の立会いのもと作成するため記入モレや記入ミスのような事がない
  • 原本を公証役場で保管してくれるので改ざんなどの恐れがない
  • 作成した時点で法的に正式な遺言書となるため亡くなった後の検認が不要
  • 自分で「書く」という作業はなく公証人に口で「伝える」だけで公証人が作成してくれる

公正証書遺言のデメリット

  • 秘密証書遺言と同じく証人が必要となるため秘密で作成することは出来ない
  • 手数料などの費用が発生する
  • 今作りたいと思っても証人の準備などがあるため「思い立ったが吉日」とはいかない

公正証書遺言の作成手順

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それぞれの遺言書についてだいぶ理解できてきましたね。それぞれにメリット・デメリットがあることも分かりました。では、いろいろと考えた結果「公正証書遺言」を作成すると決定したら、どのような流れでどのように作成するのかを見ていきましょう。

まずは状況の整理

遺言を残したい理由は人それぞれですが、どんな内容の遺言書にしたいのかを明確にしておくことが必要です。①誰に、②何を、③どれだけ、どのようにしてあげたいのか。どのように残してあげたいのか。そのためにはまず自身の資産などを全て把握する事からスタートです。

  • 自分にはどのような資産がどれだけあるのか
  • 預貯金はどの金融機関にいくらあるのか
  • 加入している保険商品はいくつあってどの保険会社のものか
  • 上記の他に資産運用のために何かしているものが無かったか

などを1つももれなく書き出す事が重要ですが、これには「ライフエンディングノート」が非常に便利です。生命保険会社や金融機関によっては無料で頂けたりするところもありますが、書店などでも購入できますので一度どのようなものなのか見てみて下さい。

下の画像は私が持っているライフエンディングノートです。まだそんな年齢ではないと思っているのですが、いつどうなるかは年齢に関係ないので加入しているM生命さんから無料で頂いたものです。

このページでは、遺言書の有無や保管場所、遺産配分の考え方など相続に関することを記入できるようになっています。

こちらのページでは年金や不動産のことを記入できます。この他に貯蓄や保険商品のことはもちろん、回復の見込みがなく死期が迫った場合の希望(告知はして欲しいか否か、延命治療はどうするか、どこで最期を迎えたいのか)なども記入できるノートです。

そして一番肝心な相続対象者ですが、実はお父さんが亡くなって財産分与が始まった途端に隠し子が発覚!なんてことも皆無ではありませんし、全く会ったことのない身内だって存在する可能性があります。お父さんは1人っ子と聞いていたのに実は絶縁状態の弟がいた、なんて事もあり得ます。

このライフエンディングノートには、存在を話していない(会わせたことがない)自分の身内を記入しておける家系図までついていますので安心です。

証人を決める

次にする事は証人の準備です。証人を決めるのは自分自身ですが、選び方には決まりがあります。まず、当たり前とも思えますが未成年者は証人として認められません。他にも下記の方は証人になれません。

1.推定相続人とその配偶者

推定相続人というのは、相続が開始された時点でおそらく相続人になるはずの人です。ですから、原状のまま状況が変わらなければ相続人となる人ということです。

2.受遺者とその配偶者

受遺者とは、法定相続人ではない人や全く血のつながりのない赤の他人に財産をあげたいと思う人が、この人にあげたいと遺言書で指定した人をいいます。

3.遺言書を作成する人の配偶者や子供、子供の配偶者など、自分が亡くなった時点で相続人となることが明らかな血族。

4.公証役場で公証人として在籍している本人とその家族など。

上記の人以外で証人をお願いできる人が居ない場合はどうしたら良いのでしょうか。頼めそうな人がいることはいるけど頼みにくい、後々気まずいことになったりするのが心配という方も大丈夫です。

その場合には公証役場で紹介してもらえます。その地域に事務所を構える現役の弁護士さんや司法書士さんなどが多く、公証人と同様とても安心してお任せできるプロの方々がほとんどです。

必要書類の準備

続いてはいろいろな必要書類の準備です。下記のように準備しておく必要のあるものは色々とありますので、二度手間・三度手間にならないよう事前にチェックしておきましょう。

  • 遺言書を作成する人の実印と印鑑証明書(3ヶ月以内に発行されたもの)
  • 遺言書を作成する人と、相続人全員との続柄が記載された戸籍謄本(3ヶ月以内に発行されたもの)
  • 相続人以外を指定する場合はその人の住民票など(住所、氏名、生年月日がわかるもの)
  • 土地や建物などの不動産を相続の対象とする場合は登記簿謄本や固定資産税評価証明書など
  • 明確な証明書などが用意できないものの場合は分かりやすく記載したもの
  • 預貯金や保険商品がある場合は対象となる通帳や保険証券、有価証券など
  • 証人をお願いする方の住民票や身分証明書(運転免許証などでもOK)

見てお分かりのように、財産を残す人と受け取る人それぞれについての書類を準備する必要があります。ですから自筆証書遺言のように思い立ったらその場ですぐ!というわけにはいかないのです。

公正証書遺言の作成

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残したい物も相続させたい人も決まって全ての準備が整ったらいよいよ公正証書遺言の作成です。

意思を伝える

証人立会いのもと、公証役場の公証人に意思を伝えながら必要な相談などをするところから始まります。もしも聴覚障害などがあって会話が困難な場合は、手話や筆談でも対応してくれますので心配はありません。

この時に、「この土地は○○に」とか「預貯金はすべて均等に分けて欲しい」などと、1つ1つ細かく伝えます。その内容に疑問点などがあれば質問も受けます。そして、その内容を公証人が漏れなく手書きで書き留めていくのです。

上記がまとまったら、遺言の作成をする本人と証人の前でまとめた内容を読み聞かせてくれます。この時点で間違いや漏れに気づいた場合は遠慮せず伝えるようにしてください。

内容の確定

まとめて読みあげられた遺言の内容に間違いがなければこれで完了となります。作成する本人と証人それぞれが「これで間違いありません」という確認のための署名と押印をすれば終わりとなり、最期に公証人による署名と押印で完結です。公正証書遺言の原本は公証役場で保管されることになります。

公正証書遺言の作成費用

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自分で手書きの遺言書を書いて何かしらの不備があって遺族を混乱させるぐらいなら、時間も手間もお金もかかるけれどきちんと公正証書遺言を作成した方が安心ですね。そこで気になるのが費用です。いったいどれぐらいの費用がかかるのかをご覧ください。

遺言によって財産を受け取る人数や資産の総額で決まります。また、費用(手数料)は財産を受け取る人1名につきの金額ですので、例えば800万円を3人に残すという場合は17,000円×3=51,000円となるわけです。

遺言書に記載する財産の価格費用(手数料)
~100万円まで5,000円
100万円~200万円まで7,000円
200万円~500万円まで11,000円
500万円~1000万円まで17,000円
1000万円~3000万円まで23,000円
3000万円~5000万円まで29,000円
5000万円~1億円まで43,000円
1億円~3億円まで43,000円+5000万超える毎に13,000円追加
3億円~10億円まで95,000円+5000万超える毎に11,000円追加
10億円超249,000円+5000万超える毎に8,000円追加

※この金額は都道府県ごとや公証役場ごとで異なるものではなく、法で金額が定められているためどこの公証役場で作成しても一律となります。

上の手数料はあくまでも公正証書遺言の作成費用です。この他に、公証役場で証人を紹介してもらった場合は証人に支払う日当が1人につき5,000円~15,000円程度かかります。

公証役場に行けない場合

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公正証書遺言の作成方法は分かりましたね。でも、公証役場に行けない人だっています。「入院中で退院の見込みもないから早く作成しておきたい」という時はどうしたら良いのでしょうか。

公正証書遺言の出張作成

公証人立会いのもと公証役場で行う必要がある公正証書遺言の作成ですが、事情があって公証役場へ行くことが不可能な方のためにご自宅や入院中の病院まで出張してもらう事が可能です。

その場合は、公正証書遺言の作成で正規手数料(上の表)の1.5倍、証人をお願いしたら日当は4時間以内なら10,000円、それ以上かかって1日扱いとなると20,000円かかります。

また、ご自宅や入院している病院、入所している老人ホームなどの施設に出張で来て頂く際にかかる交通費は金額が決められておらず、かかっただけの実費支払いとなります。

作成時の注意点

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ここまでくると公正証書遺言についてだいたい理解できたかと思います。そこで、公正証書遺言を作成するにあたって注意すべき点を最後にご紹介しておきます。

遺言の作成で一番大切なのは「自分の気持ち(意思)」です。それがハッキリしないまま作成してしまうと後で後悔することにもなり兼ねません。そのためにも事前準備が重要になります。

人間というのは感情を持つ生き物ですので、一度作成した後にケンカをしたり何かがあるとその時の感情によって「預貯金は○○の方にすればよかった」などといった意思の変化が訪れる可能性があるのです。

意思を固める

遺言の作成というのはとても重要な作業になりますので、思いつくまま気の向くままに作成するのではなく必ず意思が固まってからにしましょう。

誰に何をどれだけ残したいのか、どうすれば愛する人たちに均等に残してあげられるのかなど、ライフエンディングノートの活用も含めてじっくり時間をかけて考えてから行動に移しましょう。

定期的な見直し

しっかりと事前準備をしていたつもりでも、気持ちの変化だけでなく実際の状況が変化することだってあります。相続対象者が先に亡くなってしまったりすることも皆無とは言えません。

ですから、生命保険のように定期的な見直しをするするようにしましょう。もしも内容を変更したい場合はいつでも何度でも可能です。

「内容を全て、または一部変更したい」、「相続対象者の1人が亡くなったため除外したい」などという場合、自筆証書遺言であれば直接その訂正したい部分のみを訂正ができますが、公正証書遺言の場合は一から作成し直しとなります。

また、自筆証書遺言も公正証書遺言も訂正や変更があった場合は訂正前の内容は無効となり、新たに変更された内容にのみ効力があります。そして、何度も変更を繰り返した場合、訂正や変更した日付が一番最近のものが遺言として認められます。

証人の選定

公正証書遺言の作成をする際に必ず必要な証人を選ぶ時にも注意しなければなりません。公証役場から紹介してもらう場合は別ですが、自分で知人などにお願いするという場合は単なる親友とかご近所の仲良しさんなどではなく、信頼できる人を選んでください。

会社の社長さんだったり会長さんだった場合、信頼している秘書や部下などにお願いする傾向もみられますが、長年そばで仕えてきて何でも話せる人物だったとしてもできれば証人にはしない方が無難です。

自分にとってはそうでも、相手の気持ちもそうだしは限らないからです。会社の部下などは実は何かしらの不平不満を抱えているかもしれません。亡くなった後に初めて公開されるはずの内容を知られても問題がなく、口の堅い信頼できる人を選択しましょう。

自分の知っている人の中から選定するのは難しいので、前述のように弁護士さんや司法書士さんに依頼するのがベストだと思います。

検索システムの利用

急な事故などで家族がなくなってしまったというときなどで、遺言書があるはずなのに見つからないという時は、「遺言検索システム」というものが利用できます。

検索システムって何?

故人が生前「公正証書遺言」を作成していた場合、公証人連合会でデータベース化されることになっています。上記のような理由で遺言書の有無を調べたい時に全国の公証役場で検索できるというシステムです。

ただし、これを利用して検索できるのは相続人や受遺者など制限がありますので、誰でもが利用できるわけではありませんし、たとえ対象者であっても公正証書遺言を作成した本人が生きている間は利用出来ません。(作成した本人は生前中の利用可能)

検索の流れ

①.検索システムは、いきなり公証役場に行って「調べてください」と言っても無理です。まずは必要書類を揃えます。

  • 戸籍謄本や除籍謄本など、公正証書遺言を作成した方が死亡していると証明できるもの
  • 申し出人が相続対象者であることを証明できるもの
  • 申し出人が本人であると確認できるもの

②.①の必要書類が揃ったら公証役場へ行き、故人の公正証書遺言が存在するか否かの照会を依頼します。検索システムといっても、ハローワークなどのように申し出人が直接検索することは出来ず、公証人だけが閲覧できます。

※申し出人がお住まいの地域や故人が住んでいた地域に関係なく、全国どこの公証役場でも検索可能です。

③.申し出人と故人との関係性などに問題がない事が確認できれば、公証人が個人情報を利用してデータベースで検索し公正証書遺言の存在を確認します。

④.検索システムによって公正証書遺言の存在が確認できた場合、その原本が実際に保管されている公証役場を教えてもらえますので、そちらへ請求します。

まとめ

いずれ誰にでも訪れるライフエンディング。今回のテーマは公正証書遺言の作成でしたがいかがだったでしょうか。残された遺族が財産争いなどで分裂してしまったなどという話も耳にします。

生前にきちんと自分の意思を確実な方法で準備できていればそのような事も起きませんので、残したいと思う人がいるのなら生前最後の意思表示である遺言の作成を検討してみてはいかがでしょうか。