突然ですが、医療費控除という言葉をご存知でしょうか。もしも、「1年間に10万円以上の医療費があれば所得税が返ってくる」と考えている方がいたら、ちょっと待って頂きたいのです。
この医療費控除という制度、実は10万円以下でも対象となる場合がありますし、所得税だけでなく住民税も低くなります。さらに、市町村によってはお子様が通う幼稚園の助成金が手厚くなる可能性もあるのです。
私自身、この制度には何度も助けられてきました。今回は医療費控除の基本的な仕組みと活用方法を紹介したいと思います。
目次
レシートを捨ててはいけない理由
就学・就労・結婚・出産・転職・退職など、人生にはさまざまなライフイベントがありますが、全てが計画通りに進むわけではありませんよね。医療費控除は不妊治療や分娩費用にも適用されますから、妊娠や出産を予定している方は既に気に掛けている場合も多いかと思います。
ですが、突然の病気やリストラ、予期せぬ流産、やむを得ない中絶など、自分たちの予想を超えたことが現実には起こります。不幸はないに越したことはありませんが、避けられない場合もありますよね。その時に、精神的なショックの上に金銭的なショックも重なってしまっては辛過ぎませんか。
私自身がこういった予期せぬ不幸を経験したときに感じたことは、「せめて経済的な打撃だけでも軽くしてほしい! 」ということでした。もしも、ドラッグストアで購入したマキロンや頭痛薬のレシートが後々大きな助けになる可能性があるとしたら…。今回はそういった可能性についてお伝えしたいと思います。
医療費控除とは ~対象となる医療費の範囲~
ではさっそく、制度の中身に入りたいと思います。簡単に言うと、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費の合計が一定の金額(10万円のケースが多いです)に達した場合、その医療費を所得から控除することで、所得税を低くしてくれるという制度です。適用にあたっては確定申告が必要で、領収証の提出または保管が義務付けられます。まずはどういった種類の医療費が対象となるのかを説明します。
病院の治療費
風邪を引いたり怪我をしたりした場合に病院へ行き窓口で支払った金額は原則として対象となります。ただし、健康診断や予防接種は対象となりません。考え方としては「予防」でなく「治療」であればOKということです。また、入院や手術ももちろん含まれますが、保険金が下りた場合は自己負担した金額のみが対象となります。オムツを使用する場合も適用条件がありますので、詳しくは下記のリンク先をご覧ください。
通院の交通費
通院のための交通費も対象となります。タクシーが必要な場合であればタクシーも含まれますが、自家用車を使用した場合のガソリン代や駐車場代は含まれません。公共の交通機関でない場合は必ず領収書をもらいましょう。
ドラッグストアで買った薬
薬局やドラッグストアで購入した風邪薬やマキロンは対象となります。ただし、サプリメントは含まれません。先の病院と同じ考え方で、「治療」目的あればOKとなります。レシートが不明瞭な場合は領収書を切ってもらうと安心かも知れません。
出産など
出産費用も対象となります。その場合、自治体や健康保険組合から受け取った一時金を控除して実際に負担した金額となりますので注意が必要です。流産や中絶にかかる費用も同様に対象となります。
確認したいときは
国税庁のホームページだけでは判断できないときなど、管轄の税務署に確認すると良いと思います。私自身電話で問い合わせをしたときは、とても親切に教えて頂けました。問い合わせ先は下記にリンクを貼ります。
参考:国税庁「全国問い合わせ窓口一覧」(2017年著者調べ)
医療費控除とは ~対象となる医療費の合計額~
上に挙げた医療費の合計が10万円を超えると対象となりますが、総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額となり、ボーダーラインが変わってきます。
総所得金額とは
総所得金額等が200万円未満という条件ですが、それは源泉徴収票に記載されている年収の額ではありません。総所得金額等の定義は国税庁のホームページより確認できますがややこしいので、ここでは給与収入だけのケースで簡単に説明します。
例えば年収が200万円の場合は所得金額が122万円となります。所得金額が200万円を超えるのは、年収で言うと3,116,000円超の場合です。従って、収入が3,116,000円以下であれば、医療費控除のボーダーは10万円以下となります。
年収200万円、医療費15万円の場合の所得税をシミュレーション
先ほどの例で年収200万円は所得換算すると122万円でした。その所得金額の5%が医療費控除のボーダーですから、61,000円(=122万円×5%)を超える医療費を支払った場合、その超えた部分の金額が所得から控除されることになります。この例では医療費が15万円ですから、89,000円(=15万円-61,000円)を所得から控除することになります。所得から89,000円を控除するとどのくらいの所得税が還付されるかと言いますと、約4,450円(≒89,000円×5%)となります。
尚、所得税の税率は所得と比例して上がります。今回は122万円の所得なので最低税率の5%を適用しました。また、実際の所得税の計算は端数処理を行うので、100円未満は切り捨てになると思いますが、今回は目安として単純計算しています。
従って、年収200万円で医療費が15万円の場合の所得税の還付は約4,450円です。
所得税が4,450円還付されても嬉しくないという方へ
4,450円返ってくると言っても、あまり嬉しくないかも知れませんよね。確定申告自体がそれなりに面倒ですから、その手間と還付金を天秤にかけたときに、それ程の恩恵を受けているのか疑問に思う方もいらっしゃると思います。
また、所得税が4,450円還付されると言っても、実際には年収200万円から、基礎控除や社会保険料控除を行うと、所得税自体が非課税になる場合があります。非課税の場合にはそもそも所得税が発生しませんので、医療費控除による恩恵もありません。
ですが、医療費控除は所得税だけではないのです。住民税にも反映されます。
年収200万円 医療費15万円の場合の住民税をシミュレーション
先の例で住民税を考えます。年収が200万円の場合に住民税がいくら節税されるのでしょうか。所得が122万円で控除される医療費は89,000円です。住民税の税率は一律10%ですから、8,900円(=89,000×10%)の節税となります。
悲しいですが、ここでもやはり大した節税にはなっていませんよね。所得税と住民税を足しても13,350円です。
でも、これだけではありません。実はこの住民税を算定基礎として一般的に幼稚園の助成金が決定されるのです。
幼稚園の助成金とは
子どもが幼稚園に入ると保育料の一部が助成されます。内閣府によると幼稚園の利用者負担額は国が定める水準を元に各市町村が決定することとされています。その為、地方により助成金の額は変わってしまいますが、その算定の基礎に住民税を利用します。国の定める水準は下記のリンク先よりご確認頂けますが、ここでは一例としてさいたま市を挙げて紹介します。
さいたま市の場合
さて、助成金の算定基礎となる住民税には均等割と所得割という2つの部分があります。詳細は割愛しますが、均等割は一律5,000円です。一方、所得割は所得金額に10%を乗じて計算しますので、所得が高い人は住民税額が高くなるという仕組みです。
その所得割を基準として助成金の金額が決定するのですが、さいたま市では、「0円の世帯」「77,100以下の世帯」「211,200円以下の世帯」「上記以上の世帯」という4つに分類して、該当する段階にある助成金が受け取れます。因みに、「0円の世帯」から順に308,000円、155,200円、102,200円、40,000円となっています。
例えば、住民税の所得割が77,100円であれば、155,200円受け取れますが、77,200円になると102,200円となり、53,000円も助成金が減ります。
ここで、医療費控除の話に戻ります。もしかすると、医療費控除を行ったことにより、77,200円の所得割が77,100円になる可能性があるということなのです。医療費控除をお勧めしたい理由は正にここです。
参考:さいたま市 「交付要綱」に記載しています(2017年著者調べ)
渋谷区の場合
因みに、他の自治体として東京都渋谷区を調べました。所得割を分類する基準額は異なりますが、基本的なやり方は同じですから、医療費控除を行うか否かにより、数万円の違いが生まれる可能性があります。詳しくは下記リンク先をご覧下さい。
先ほどのさいたま市も同じですが、実際には、所得割自体が発生しない「非課税世帯」や「生活保護世帯」という分類もあります。また、ひとり親世帯や、兄弟姉妹のいる世帯はそれぞれ優遇がありますので、ここに載せた金額は飽くまで参考にして下さい。詳細を確認したい場合は、リンク先をご覧頂くか、各市町村にお問い合わせ頂くのがベストです。
当然ですが、医療費控除を行えば必ず幼稚園の助成金が上がるということではありませんし、飽くまでの確率の話になります。ですが、1年分の領収書を集めて申告すれば現金が戻ってくるかもしれないのは事実。先のさいたま市の例では、ドラッグストアのレシート一枚が53,000円を生む可能性を示唆していると言えます。実際には極めてレアなケースだとは思いますが、絶対にないとは言い切れないですよね。
リストラや流産という事態も
私自身の話なのですが、夫が突然解雇されたことがあり、その年に第2子を流産し、その後に中絶をするという経験をしました。夫の解雇には雇用保険が下りますが、その雇用保険は所得税及び住民税が非課税となります。
ですから、例え100万円の雇用保険を受け取っても、そこに税金はかかりません。そのため低くなった所得に対して、流産や中絶による医療費を控除しますから、節税効果が大いにありました。そして、所得を抑え、住民税の所得割も低い状態で第1子が幼稚園に通っていたので、そこで手厚い助成金を受けることができたというわけです。
私が専業主婦だったので夫の失業は不安でしたし、流産や中絶は悲しいものでした。ですが、いずれも現実として乗り越えなければなりません。「お金で解決」とはいきませんが、心が辛い時に金銭的に助けられると、精神的な負担を軽減してくれたことは事実です。(余談ですが、中期中絶というのは火葬も必要となり精神的苦痛だけでなく金銭的にも負担が大きくなります。)
もちろん医療費控除だけではありませんが、法律や制度を積極的に活用すれば、まさかの事態の助けになってくれます。結果的には数千円、数万円の還付かも知れませんが、その金額が色々な意味でありがたいことがあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。医療費控除は多くの場合10万円を超えないといけない上に、10万円を超えた部分の所得控除になるので、手間の割に還付が低く、実りの少ないイメージがあります。以前、会計事務所に勤めていましたが、そこでもコスパの悪い制度という位置付けでした。
ですが、人生何があるかわかりません。出産予定もなく健康であっても、年末に事故に遭うかも知れません。皮肉ですが、節税という観点からは、医療費はできるだけ大きくあった方が結果的に助かります。ですから、ドラッグストアや病院の領収書は12月31日を迎えるまで捨てずに取っておきませんか。そのレシート一枚が、近い将来、あなたを救う可能性を秘めていますよ!